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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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人質Ⅱ

 ――――時間は少し遡り、舞台は公爵邸へと移る。

 廊下を慌ただしくメイドや執事、そして何名かの騎士が駆けまわる。遠征ではなく、領地内における防衛戦ということもあって、公爵邸では騎士たちへと供給する糧食の配膳や代えの武器、防具などの準備に追われていた。


「あまりもたもたしていると遅れます。迅速に無駄なく動く!」

「は、はい」


 メリッサの後ろからの声に背筋を伸ばしてアイーダが早歩きで廊下の脇をすり抜けていく。両手で何とか抱え込んだ鎧が高い音を響かせた。メリッサやここのメイド長からすれば、もっと丁寧に静かに運ぶように言われるだろうが、今は速度優先だ。

 武器と防具をある程度出し終えたら、負傷者の手当てに回らなくてはならない。ただ怪我をしただけならばポーションなどでマシにすることもできただろう。だが、運ばれてくるのは蜘蛛の糸に絡めとられて動けなくなったものが大勢だ。

 要らない清掃用具などで巻きとったり剥がしたりしようとしているが、なかなか上手くいかず、人海戦術であたることとなった。その役目は下っ端に回されるのが当然な流れであり、例に漏れずアイーダにもお声がかかった。

 鎧を玄関ホールの隅に並べると、すぐさま外に用意された天幕の下へと向かおうとする。横たえられている騎士たちを一人でも早く戦線に復帰させることが、この戦いの勝利に繋がると信じていた。そんなアイーダが天幕へと踏み込んだ瞬間、救護の指揮をしていたメイドが振り返った。


「アイーダ!? ちょうど良かった! 園芸倉庫からハサミをできるだけ持ってきてちょうだい。この糸、粘々してるくせに刃物で簡単に切れるみたいだから! 早くっ!」

「わ、わかりました! すぐに行ってきます」


 踵を返すとアイーダは早歩きで屋敷の中に戻り、鍵を取ってから倉庫へと向かう。

 屋敷から再び外に出ると、別のメイドも指示を受けているのか、スカートの両側を両手で持って、すごい勢いで屋敷の中へと駆けて戻っていく者もいた。こういう移動時に、丈の長いスカートという物は意外と邪魔になるものだ。ため息をつきたくなる気持ちを抑え、前へと進む。


「命に別条がない以上、慌てては危険。そういう意味では走り出さないあなたは立派ですね」

「…………」


 メリッサの声を無視してアイーダは進んだ。

 作法が何だ。メイドが何だ。今、騎士達が命懸けで戦っている中で、できるだけ早く一人でも多く復帰させることが他の人の命を救うことに繋がる。

 それを手伝いもせずに後ろからあれこれと指示を出すだけ。最初は自分のことをわかってくれると思っていたのに、思い違いだったとアイーダは激しく後悔していた。


「(こっちがどれだけ大変な思いをしているかも知らないくせに……!)」


 苛立ちを隠しながら、目的の倉庫の鍵を外し中へと入る。

 開けた瞬間にムワッとした空気と土の臭いが押し寄せる。顔を顰めながら進むと棚が二段になって横に広がっていた。鍬や鋤といった大きい物はすぐに目が付くのだが、ハサミともなると箱に納められているのか、見渡しただけではすぐに見つけられない。


「……あなたは左を、私は右から調べます」

「……お願い、します」


 アイーダは初めてメリッサが手伝いを進み出たことに、少しばかり驚いた。それでも先程までの憤りがまだ心の中にあったため、感謝の言葉もぎこちなくなってしまう。


「(もう、意味わかんない。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけない――――!?)」


 一番見やすい中段の端から中身を見ていくと、早くも三個目で目的のハサミが十個程入った箱を見つけた。使える物かどうか確認しようと手に持った瞬間、首から下が急に引き攣るような痛みに襲われる。自分の意思とは別に、外側から無理矢理手足を動かそうとしているような力だ。抵抗しようとすれば、指などは簡単に折れるか、引き千切られるだろう。

 それが何かをアイーダはすぐに察することができた。何故ならば、ここ数日はその恐怖の元凶と共に()()()()()()()()()からだ。

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