乱戦Ⅴ
このまま続ければ、被害の少ないまま終えることができるだろう、と誰もが思い始めていた時、騎士の一人が何かに気付いた。
「何だ? 堀の中に……!?」
体を乗り出していたからこそ、真下の水堀の中で揺らめく何者かを捉えることができたのだろう。だが、気付いた瞬間に目の前に飛来する物体。慌てて、自らの槍で庇いながら頭を引っ込める。愛用していた槍は城壁を擦りながら堀の中へと吸い込まれていった。
「大変です! いつの間にか水堀の中に敵が侵入しています!」
「何だと!?」
イーサンが驚愕すると同時に水を吹き飛ばす音が幾つも上がる。次に目に入ってきたのは城壁へと足をかける蜘蛛たちの姿だった。
「あ、有り得ない! どうやって、結界を抜けてきた!?」
「口より手を動かせっ! 城壁から先へは行かせるな!」
慌てて指示を出すが、上がってくるのは一匹や二匹ではない。槍で突き落しても次がすぐに顔を出し、剣で払えば、その屍を越えてくる。次から次へと湧き出る様子に流石の騎士たちもおかしいと思い始める。
「おい、一体何匹倒せばいいんだ?」
「っつーか、これ……想定していた数より多くないか?」
本隊はどんなに多くても三百は超えないはず。
しかし、目の前にいる敵は体感的にもその倍に感じる。
「オーウェン! 何をしている。早く片付けんか!」
「も、申し訳ありません」
目の前に現れ始めた蜘蛛に動揺したオーウェンを公爵は怒鳴りつけながらも、心中では騎士同様に敵の戦力に疑念を抱き始めていた。
「結界をいつ擦り抜けた? いや、そもそも、この数……明らかに報告と違うではないか」
公爵は剣に魔力を込めて結界の状況を把握する。現在も死骸が飛び掛かってきて、無理矢理結界を割って入るが、それ以外にどこかが破られたわけではない。数秒間、思考を巡らせていた時、思わぬ落とし穴に自分が嵌っていたことに気付く。
「くっ、魔物如きに隙間を気付かされるとは……一生の不覚!」
剣へと再び魔力を流すと、水堀の中で蜘蛛たちが一斉に潰れだす。
「水堀は攻撃用にオーウェンへと回してある。潜って進んでくれば結界には接触せずに済むということか」
慌てて結界の範囲を水中にまで広げたことで、それ以上の侵入は防ぐことができたが、その間に城壁に登った数は相当数いる。公爵とオーウェンの周りにはそれなりの腕が立つ者を連れているが、それ以外の場所では押し負けているところが早くも出始めていた。
騎士たち同様にクレアたちもまた、蜘蛛たちに囲まれながら奮闘を続けている。弓では間に合わなくなったのか、クレアは落ちていた剣を使って蜘蛛の足を薙いで、ガラ空きになった顔面に蹴りを叩き込む。
「クレア、蜘蛛の牙、大きい」
「はっ、牙が怖くて冒険者がやってられるかって。タイミングと度胸があれば、そんなもの怖くもなんともないね! さっきの結界を突破した奴らに比べれば、こんな小さな奴に負けて、られるか!」
一騎当千と言わんばかりの活躍に周りの騎士たちも徐々に冷静さを取り戻す。
「伯爵のとこの嬢ちゃんが頑張ってんだ。俺たちも負けてられるかっ!」
「その通りだ。さっきの蜘蛛より小さいんだ。こんなもの怖くもなんともねぇや!」
気迫で押し返す騎士。屍を乗り越えて戦う蜘蛛。一進一退の戦いの最中、オーウェンは戦っていた蜘蛛女の挙動に注目する。
「攻めて来る気配が、ない?」
試しに攻撃をいくつかばらけさせて、周りの蜘蛛を排除しようとすると、杖で巻き起こした風で妨害してくる。それでも、相手から攻撃してくる様子は見られない。それはまるで――――
「――――時間稼ぎか!?」
倒しても減らない敵などというのはあり得ない。魔剣を振るいながら蜘蛛女の背後を見渡したオーウェンは、とある場所に目を奪われた。
「増援……!」
目に飛び込んで来たの光景は、蜘蛛たちが攻めてきた林から、続々と新たな蜘蛛が大挙して押し寄せる姿だった。
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