第一波到来Ⅷ
いくらユーキが素早く動いたとしても、剣の届く範囲とガンドの撃てる回数には限りがある。北北東の城壁から東までの距離もあり、ここからでは全員を救うなど到底間に合わない。
そう思った矢先に、水の結界から蜘蛛と死骸を包む水牢へと水が追加で送り込まれる。
「ダメだ。魔力を吸って、あいつらは力を――――」
――――グシャッ!!
聞こえてもいないのに、中にある骨が砕け、蜘蛛が潰れていく音が響いたように思えた。吸収よりも素早く、圧倒的な水の圧力で圧し潰したらしい。
しかし、敵も黙って潰されていくわけではない。新たに糸を吐き出し、手繰り寄せ、その力だけで水牢と結界を突破する個体も存在していた。
当然、城塞都市には城壁の上空から侵入しようとする魔物に対しては水の結界とは別に侵入を防ぐ結界が存在している。外へと弾き飛ばすと同時に電撃を食らわせるタイプのものが一般的であるが、蜘蛛たちはそれを無理矢理糸で吹き飛ばされないようにして侵入している。
その代償として、八本ある内の何本かが根元から引き千切れる個体が多数であったが、村人の死骸ごと城壁へと辿り着き、糸で千切れた手足を元の体へと手繰り寄せて修復しようとするものまで現れた。
「……最初の襲撃者もこれで侵入したのかっ!?」
目の前で死骸の中へと潜り込もうとした蜘蛛を切り裂きながら、ユーキは蜘蛛自体の動きを確認する。
死骸を操っていた時ほどの素早さではないものの、魔物だけあってそのスピードは遥かに速い。人間の両の手を広げた大きさを遥かに凌ぐ足。黄色と黒の縞々模様が目立ち、その色は敵対する者に危険生物であることをアピールしている。
カサカサとそれが地面を這っていたかと思うと、一瞬にして数メートル先へと移動して、ユーキへと襲い掛かった。大小八つの黒い眼の下には人差し指サイズの牙が二本突き出ている。
「フェイほどじゃないけど、かなり早い! おまけに小さいから斬りづらいな、ちくしょうめ!」
悪態をつきながら剣を振り上げようとした瞬間、蜘蛛の腹部に緑色の光が集中するのが目に入った。
即座に糸が飛んでくると判断したユーキは、振り上げようとした体をそのままスライディングへと移行する。先程まで自分の胸があった所を勢いよく噴射した糸が飛んでいった。
「うわっ!?」
運悪く、ユーキの後ろにいた騎士が二名が粘着糸の犠牲になる。このまま、放っておくと糸にまた火が引火するだろう。
重力に従って落ち始める糸を片手で切り払い、そのまま勢いを殺さずに起き上がる。即座に照準を合わせて、蜘蛛へとガンドを放つ。細かく揺れていた腹部がゴロゴロと吹き飛び、頭部と足が四方へと飛び散った。
だが、それで安心してはいられない。既に城壁には多数の蜘蛛が到達しているほか、糸と共に火に巻かれ暴れている騎士たちが数名見えた。
近くの騎士たちも水で消火し、糸を斬りはらう。その一方で迫りくる蜘蛛の対処もしなければならないのだから、城壁の上は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。城壁から一方的に攻撃できるだろうと準備していた槍も城壁の上で戦うには取り回しが悪い。下手に振り回せば仲間を叩き落すことになってしまう。
騎士たちもそれがわかっているのか、既に剣と盾で応戦をしているが状況は芳しくない。
「――――しまった! 内部へ何体か敵が向かったぞ!」
騎士の叫び声に何人かが槍を投擲して追い打ちをかけるが器用に蜘蛛たちは、それを躱していく。ある個体は糸を伸ばして空を飛んで民家の煙突に、ある個体は城壁をそのまま駆けて地面に、まさに野生にいる虫のようにあちらこちらへと拡散しようとしていた。
「――――ご安心ください。そこから先ヘは一匹たりとも進ませはしません」
幼い声が響くと同時に、幾本もの青い閃光が縦横無尽に解き放たれた。それぞれの閃光は建物を避けて蜘蛛へと向かうと、その頭部を一撃で貫通し、水飛沫を上げる。
「何だ今の水魔法は!?」
「そんなことはいい! 城壁の中に入られてとしても、誰かが防いでくれるんだ。こいつらだけに今は集中しろ!」
水魔法に精通した公爵の騎士たちも、その一撃の威力に目を奪われてしまう。誰もがその術者はどこにいるのかを気にしながらも、目の前の脅威の排除へと動いた。
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