第一波到来Ⅶ
悲鳴の聞こえた方を見ると、そこには鎧や武器に緑色の閃光が絡みついていた。魔眼を解除して足元に転がった魔法石のカンテラの光を頼りに観察すると、それが粘性をもった透明な糸の束であることがわかった。
「やはり、これは蜘蛛の糸!?」
「予想通り蜘蛛の魔物ってわけか。気持ち悪いぜ」
マリーが横薙ぎに杖を払って風の魔法を呼び起こすが、意外にもその糸が千切れることはなく、半ばで切断が止まっていた。想定以上の強度に驚きを隠せなかったが、マリーは冷静にもう一振りして、ようやくその糸を切断する。
「くっ!? た、助かった!」
「あんたは下がってな。そのままじゃ戦えないだろ!」
両手と胴がネバネバしたものに拘束され、槍を振るうどころか移動するだけでも一苦労だろう。騎士は他の仲間に引きずられるように街の中へと降りていく。
「他の所は大丈夫か?」
「そうでもなさそう、ですね」
多くの騎士が糸に絡めとられ、サーチライトを動かして見張るどころの騒ぎではない。肝心のサーチライトも糸が付着しているせいか光が弱まっているように見える。
遠距離からでも蜘蛛の糸は切れるとわかったマリーは、連続で風の刃を生み出して糸を切断しようとしていく。それでも、糸は中途半端に切れるだけで完全に切断するには至らない。
埒が明かないと思ったユーキは躓かないように魔眼を開き、身体強化で加速をつけ、目の前の騎士に絡みつく糸の束へと思い切り剣を薙ぎ払った。
「――――は?」
どれだけの衝撃が返って来るかと不安に思いながらも振るった剣は、まるで水面を割くかのように糸を切り離す。そのあまりの手応えの無さに、間抜けな声が思わず口から飛び出してしまった。
手にある剣は折れてしまった刀の代用として買ったもので、買う時に魔眼で見た時も他よりちょっと強い光が見えた程度だ。付け加えるならば、公爵の騎士たちが使っている剣の方が鋭い輝きを放っているものもある。特段、剣に能力が付与されているようには思えない。
剣を何度か角度を変えてみるが、フェイの時と同じように蜘蛛の糸が数本絡んでいる程度だ。
「もしかして、魔法より物理の方が斬りやすい……のか?」
首を捻ってしまうユーキだったが、急に視界が明るくなったことに気付く。敵襲に対応するために篝火でも焚かれたのかと思った。
しかし、その光が灯ったのは城壁の外側。空中に篝火をたくなど不可能だし、サーチライトの光が結界に反射しているわけでもない。
光源に目を向けたユーキは自分の目を疑った。
「蜘蛛が……火を吐いている!?」
「いえ、確かに火は吐いていますが、それだけならば水の結界を突破することはできません」
水に包まれているにも関わらず、蜘蛛の口からは火が出ていた。
「いや、違う……蜘蛛の糸に引火させてるんだ!」
糸を出している自身の体が燃えないということは、糸の種類が途中で変化しているのだろう。水の魔法の中でも消えない炎というのは、それもまた魔法の一つであることの証。
ユーキは舌打ちをしながら、次の騎士の下へと駆け抜ける。既に糸を辿る炎は城壁を囲む水の結界を突破し、捉えられた騎士たちの下へと迫っていた。
ピリピリと体内を流れる魔力に反応して起こる静電気のような感覚を無視して、一つずつ処理をしていくが如何せん数が多すぎる。運良く他の騎士たちが使った剣で救出された者もいるが、目の前には捕まっている者がまだまだいた。
「剣で対応できるなら、それに越したことはない! ユーキ、僕はマリーから離れられない。ここから先は頼んだぞ!」
「あぁ、任せとけ。フランも何か合図が会った時に動けるようにフェイと一緒にいてくれ!」
ユーキは返事を待たずに、更に次の騎士に向けて足へと魔力を注ぎ込む。騎士へと迫る導火線を一つでも早く斬り落とさねばと、人がひしめく城壁の道を剣を振るいながら駆け、間に合いそうにないものはガンドを放って糸を消し飛ばした。
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