第一波到来Ⅱ
ユーキたちが各自の持ち場へと来たのは、敵襲の報が入ってからすぐのことだった。
城壁へと上がって見えた光景は思ったよりも呆気なく、そうと知らなければ敵が襲ってくるとは思えないほど長閑な風景だ。
「ユーキ。大丈夫だと思うけど、最初は攻撃を仕掛けないでくれよ。後、僕たちの役目はわかっているね?」
「ああ、大丈夫だよ。あれだけ朝から口酸っぱく言われてれば、流石に覚えるって」
フェイの母親のような再三の確認にため息をつき、目の前に広がる平原を見渡す。
北から流れてくる大きな川。それを利用した天然の水堀。攻撃でできるだけこちら側への侵攻を押し留めるようにと言われたが、わざわざここを跳び越えてまで移動をする気には普通ならないだろう。
「……いや、あのジャンプ力なら跳び越えられることも有り得るか」
川幅はかなり広いとはいえ、超高速で動き回る敵の動きを思い出すと不可能とは言い切れない。だから、北の警戒をするのは別段おかしい話ではない。
ただ、その場合は南側への侵攻を止める部隊がいるかどうかが問題だ。少なくとも、昨夜の段階でその話はなかったはずだ。
そんな疑問をここに来る直前でぶつけた所、意外にもその答えはすぐに返ってきた。
「少ないとは言っても、冒険者ギルドがありますから。恐らくそちらの方とギルド員が総出でお出迎えをするのでしょう。尤も、第一波の公爵の対応を見るに、その心配もないかもしれませんが」
アンディはそう言っていた。
敵の本拠地からの位置関係から最短距離。しかも、敵の到着は予想されていた最短時間でやって来た。迂回して攻撃を仕掛けるとなると、この広い場所では相当遠回りをしなければならなくなる。
これが人間であれば作戦の一つとして実行する者もいるかもしれないが相手は魔物。知恵を働かせるとなっても、そこまでの統率できる個体となると数が限定される。
「種の王たる個体……それが出てくると先日のダンジョンの氾濫とはまた違った面倒さが出てくるな」
「マリーさんはそういう魔物がいると思いますか?」
「あたしとしてはいてほしくないけど、公爵様がここまで躍起になるってことは、そういうことも想定しないと不味いよな」
近くで話していたフランとマリーの声で思考の海からユーキは浮上する。
「因みに……強いよな?」
「さぁな。そこら辺は種によって違うみたいだぜ。アンディが心配していたみたいな統率に優れた個体。戦闘に優れた個体。繁殖に優れた個体。あるいはその中の複数を得意としているタイプがいる。あたしが知っているのは蟻の場合は完全な繁殖タイプ。戦闘は産んだ奴に全部お任せってね」
「蜂とかも似たタイプそうだな。……絶対に相手したくないな」
蟻や蜂が人間大。あるいはそれ以上になったと想像すると、とてもではないが勝てる気がしそうにないと感じてしまう。自分の体の何倍もの大きさの物を運んだり、硬いものを引き千切ったりと、素の能力が段違いであるのも恐怖を引き立てる要因の一つだ。
「いや、そんなことはどうでもいいか。今は目の前の敵に集中しないとな。とりあえず、もう一度装備だけ確認して――――」
「失礼。部下とのやりとりで遅れた。そちらの人員の確認をしたい」
「チャーリーさん」
北北東の部隊を纏めるチャーリーは周りを見回すと頷いた。
「騎士が十名。魔法使いが三名。その内の一人につく専属騎士が一名。全体から見れば少ないが、我々にとっては心強い味方だ。よろしく頼む」
「あぁ、こっちこそ」
チャーリーが差し出してきた手を握り返しながらマリーも頷いた。無表情なチャーリーの顔が僅かに微笑んだ。
「君たちの作戦は聞いている。少しばかり半信半疑だったが可能ならば我々もその案に賛成。最悪、失敗したところでそれは元々の案の外。やってみる価値がある。では、着いてきてほしい」
そう言ってチャーリーは踵を返した。その先には公爵の、そして彼の部下たちが微動だにせずに身を屈めて戦いの時を待っていた。
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