襲撃前夜Ⅵ
酷く心外そうにサクラとアイリスを見ると、マリーは抗議の声を挙げる。
「おいおい、あたしだって本当に人の嫌がることはしないぜ?」
「嘘でしょ……。私があんなに止めようとしても、悪戯ばっかりやってたマリーなのに……」
「あんた、サクラちゃんと会ってまだ半年くらいでしょ? 何やらかしたの? 後で聞くから逃げられるとは思わないように」
クレアが思わず白い目を向ける。空笑いしながらマリーは目を逸らすが、クレアはそれを逃す気はないようだ。しれっとフェイがかつてしていたようにマリーの服に手をかけて捕まえていた。いや、むしろクレアの方が本家かもしれない。
「最後の詰めは明日の朝でいいかしら。眠くなってきた頭で考えても良い案は浮かびそうにないし。じゃあ、メリッサ、アイーダ、後の片付けはお願いしてもいいかしら?」
「はい。もちろんです」
そう言ってアイーダはてきぱきと片付けを始めると、十数秒でワゴンへと茶器を乗せて、そのまま退室していく。それを満足そうに頷いたメリッサが扉へと向かった。アイーダが出た後、メリッサは扉が閉まる直前にピースサインだけ残して消えていく。
片付けの間、少しばかり雑談に花が咲き始めていたが、クレアが大きく咳払いをしたことで場の空気が一変した。
「ねぇ、一つだけ確認したいことがあるんだけどいいかしら?」
クレアの据わった目から彼女が言おうとしていることが、とても重大であることを察した。
「マリー。あんた、さっきのユーキが怒った瞬間、おかしいとは思わなかった?」
「えっと……まぁ、タイミングよく啖呵切ったな、とは思ったかな。それがどうかした?」
その言葉を聞いてクレアはマリーの服から手を放して、腕を組んで考える。
「……タイミングが良すぎる、と思ったのは、あたしの気のせいか。まるで、マリーが次に怒り出すってわかってるみたいだったようにも見えたから」
「流石にユーキもそこまでできるはずないぜ。そんなこと言ったら、あたしの心が読めてることになるじゃん」
笑い飛ばすマリーであったが、それをソフィは真剣に受け止めているようで、見た目にはそぐわないほど真剣な顔をしていた。
以前、魔法学園の生徒でアランという炎使いの男に喧嘩を吹っ掛けられた時を思い出す。まるで相手がどのように動くのかがわかっているような身のこなし。少なくとも、王都に来るまで武器をほとんど扱ったことがないというユーキの言葉を信じるならば、明らかに矛盾している。
「ソフィなら何か知ってるんじゃない? 少なくとも、精霊としてユーキと一番近くで生活していたでしょう?」
「……あまり人のことを本人がいない所で話すのは気が引けますが、私自身も気になっていたことではあります。そもそも、私が彼と一緒に過ごすようになったのは、彼に私が見えていたからです」
それを聞いて、クレアはやっぱりという表情をした。
「ギルドで少し小耳に挟んだの。新人の魔眼持ちがいるって。まさかユーキだとは思っていなかったけど問題はその後。彼、何の魔眼の持ち主?」
「えーっと、私はそう言った話は聞いたことがありませんね。サクラさんとかは聞いてないですか?」
話を振られたサクラだったが、首を振って否定した。
「私も最初に会った時にギルドの登録で魔眼持ちだっていうことは知ってたけど、それ以外はあまり……。ユーキさん自身も何の魔眼かわからないって言ってたから」
どのような能力か。どのような名前か。そう言ったことは少なくとも、今まであまり耳にしてこなかったことをサクラは覚えている。どちらかと言えば、ミスリル原石でできた城壁を穿つほどのガンド方が印象に残っていた。
「精霊が見える――――となると透視や暗視、千里眼といった受動的、情報を受け取ることに特化した魔眼タイプになる。そう考えると、さっきのことも少し説明ができるんじゃない?」
その言葉で何人かはここでいう情報が何かに気付くことができた。それを真っ先に口に出したのはフランだった。
「……感情を視覚化する魔眼?」
「そう。ただ、それだけだと敵の攻撃を避けるとかいった行動には結びつかない。感情を含む、もっと大きなくくりで視覚化できる魔眼を持ってるのかもね」
そう言い放ったクレアは、その後一言付け加える。
「――――使い様によっては化けるかもね。彼は」
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