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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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襲撃前夜Ⅱ

 公爵家の騎士隊長が三名ほど入ってきた。その先頭に立つのは、先日も作戦というにはあまりにも簡潔過ぎるものを連絡した隊長であった。


「失礼。急ぎの用事だったのでね。悪いが少し耳を傾けてもらう」


 そう言うと後ろにいた騎士から肩越しに丸められた羊皮紙を受け取る。

 素早くその場で開いて騎士隊長は話し始めた。


「ローレンス伯の令嬢並びにその友人、騎士たちは最も敵が集まると予想される北東部に配置される。指揮は公爵自らが前線で取るため、それに合わせて攻撃をしてほしい。尚、その際に付近にいる騎士隊長は我々三名になる」


 一通りユーキたちの顔を見回した後、誰もが微妙な顔をして見つめていることに気付く。何かおかしなことでも言ったのだろうか、と騎士隊長が目をぱちくりしているとソフィがスッと手を挙げた。


「あなたのお名前、まだ伺ってません」

「初めて会った時に言い忘れてたか。悪い悪い。俺はイーサン。それでこの二人は会うのが初めてだよな。おし、お前らはしっかり言っとけ」


 イーサンが脇に退くとユーキたちから見て右側にいたスキンヘッドの男が前に進み出た。体格は細く見えるが、見えている肌を見ただけで無駄な脂肪がほとんどついていないことがわかる。年は三十台後半といった所だろうか。


「ジャクソンだ。今回は君たちと同じ城壁でも東寄りに配置される。第二波到達時には魔法による攻撃だけでなく、弓による攻撃を行う予定。可能な限り君たちに危害が及ばないように善処する」


 そう言い終わると一歩下がり、代わりに残った男が一歩前に出た。

 背丈が高く、茶髪の髪をオールバックにして束ねている。ジャクソンよりも肉付きがいいが、イーサンほどではなく、二人のちょうど中間くらいのガタイだ。


「チャーリー。北よりの担当。攻撃方法は魔法か槍。公爵の合図で城壁から飛び降りて、敵の側面へと突撃する急襲部隊になる可能性もある。もし、身体強化が得意で素早さに自信のある者がいたら、こちらに参加してもらえると助かる。後はそうだな……誤射はしないで欲しい。以上」


 彼も同様に一歩下がると、イーサンが真剣な表情でクレアとアンディを見る。


「早ければ明日の晩には敵が来るだろうという話は聞いていると思う。そこで部隊の配属について決めておいて欲しいと思って来た。必要な情報はこの羊皮紙にまとめてある。もちろん、トップシークレットな情報だから、扱いには注意してくれ」

「わかりました。わざわざ、ありがとうございます」


 クレアに視線で促されて、アンディはその羊皮紙をイーサンから受け取る。


「第二波以降は魔力を出し惜しみする暇はない。限られた人員しかいない以上、ここを押し切られた場合、完全に街に侵入されることが想定される。そうなれば、ただでさえ帝国の侵攻で揺らいでいる王国の基盤が崩壊しかねない」

「今度こそ、全面戦争ってことか」

「あぁ、公爵は心配をかけまいと平静を装っているが、あの人はヤバい時ほどそういう風に自分を演じる。前にも言っただろう? 学園の魔法使いのヒヨッコだろうと何だろうと手を借りておきたい、と。嘘でも何でもなく、言葉通りの意味ってわけだよ」


 両手を上げて参ったというポーズをとる。それに付け加えるようにチャーリーが口を開いた。


「人数の関係上、攻撃人員はほぼ全てが北東・東部に集中。それ以外は防御に必要な最低人員のみ。可能な限り戦域を広げずに対処したい。公爵の結界は強力だが――――無敵ではない。万が一のことも考えて動かなければならない」

「公爵が倒されたら終わりってことだよな。術者が死ねば、魔法も解けるのは当たり前だし」


 マリーの言葉にチャーリーは頷いた。街の中からの攻撃などはほとんど考えられないが、結界を貫通しうる攻撃方法が敵にはあるかもしれない。そうなった場合、前線で指揮をしている公爵は最も狙われやすく危険だ。

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