待機Ⅳ
アイーダに見送られて、ユーキたちは坂を下ってすぐの大通りに向かった。
王都ほどではないが人通りはそれなりにあり、活気づいている様子が見える。もし、門が封鎖されていなければ、これよりも人の行き来が激しくなっていたことも考えると、その光景が見られないのは残念でもある。ただ今だけは、この街の把握が第一目的であるため、人が少ないことに越したことはない。
「大通り周辺は道の造りが王都をモデルにしているので、少し覚えやすくもありますが、実際はかなり異なっていると聞きます」
「そんな面倒なことを何でまた……」
杖で水の球を遊ばせながら、マリーは目に映る店を一つずつ確認している。飲食店はもちろんだが、一際目を輝かせていたのは、魔法に関連する道具を扱う店だろう。特に鉱石などを扱う店の前では数分ほど立ち往生するくらいだ。
「敵が攻め込んできたときに、公爵家と王都のそれぞれに入ると、既視感で迷うように作られているらしいですよ。魔法を使わない魔法、とまで言われていたそうですが」
表に並べられている庶民用の鉱石をじっくりと眺めるマリーの背中越しにアンディは告げる。その一部が不安になったのかフェイが問いかけた。
「言われていたということは、今は意味がないと?」
「まぁ、ここまで攻め込まれたことがないので実際に判断できるかわからないのが一つ。もう一つは、これだけ長い間開かれていたのです。王都もこの街もスパイなんていくらでも入って地図を作ることが可能でしょう」
今にして思えば、紆余曲折はあったものの、クレアとマリーがローレンス領に戻らなくてはいけなかった最大の原因は、魔法学園にスパイが侵入したことだ。当然、王都の街の情報はその国には筒抜けだろう。王都がそうなっているのならば、各地の一般人が入ることができない砦以外も同様だ。
「この国は、人間との戦いではなく、魔物との戦いを積み重ねてきた。だから、そういう意味では、攻め入られたら危険」
「そんなことあってほしくないけど、こっちがどんなに争いを拒んでも相手からやって来るものは、どうしようもないもんね」
言葉で解決できるのなら、法律で縛れるのなら、戦争なんて最初から起きない。どこかの偉い人物は「戦争は外交の一種である」とみなしていたが、まさにその通りだろう。
世界は違えども、最終的には武力と経済力がものを言う。ユーキは戦争を望んでいるわけではないが、少なくとも平和ボケした思考停止にはなりたくないと思うことが、元の世界でも何度かあった。
「力こそが全てか。嫌な世界だ」
どこか頭の片隅で、言葉に表現できない何かの声が聞こえてくる。悲鳴ともとれるし、怒号ともとれる。ただただ、どす黒い何かが胸の内に急に渦巻き始めていた。
「……ユーキさん?」
「……ごめん、ちょっとボーっとしてた。行こうか」
いつの間にか歩き始めていたマリーたちから離れた場所で佇んでいたユーキを心配したのだろう。目の前でサクラが手をひらひらと振っていた。
「もしかして、まだどっか痛かったりする?」
「大丈夫。ちょっと睡眠不足だったのかもしれない。さぁ、行こうか」
適当な理由をつけてマリーたちを追いかけ始める。そんな走りっていく最中、マリーが見ていたショーウィンド内の鉱石が目の端を通り過ぎていく。
「そういえば、ダンジョンでもらった魔石。結局どうしたんだっけ?」
「あ、アレなら一応、マリーの家に行く前に加工依頼をお願いしてきたよ。本来ならすごく料金がかかるらしいけど、特別価格でやってくれるって言うから、みんなそこで預けてある」
特別価格、と聞いて途端に不安になるユーキ。
「大丈夫なのか? その店。技術には正当な対価が払われるべきだし、安直に技術を安売りする職人は信用するべきじゃない、って俺は思うんだけどな」
「大丈夫。絶対に信用できる人だから、ユーキさんも完成したら一緒に見に来てよ。マリーなんか、誰が一番似合ってるかユーキさんに決めてもらうつもりでいるらしいから」
「(嫌な予感がするな。未来の俺よ、後は頼むぞ)」
マリーが関わった瞬間に、何らかの罠を警戒したユーキは思考を停止させて、目の前のみんなに追いつくことに集中する。そんなユーキの頬を湿った風が撫でて行く。西の空には少しばかりどんよりとした雲が見え始めていた。
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