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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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待機Ⅱ

 もしや、魔眼の能力を制御できているのだろうか。そう考えたユーキは、もう一度服のその先を見ようと意識した。すると、服の色の向こうに先程まで見えていた色が再び見え始める。


「いや、これ本当か……!?」

「なにが?」

「俺の魔眼が――――」


 透視能力的な力を持っているだなんて、と言おうとしたところで我に返る。錆びついたたロボットが振り返るかのように首を横へと向けると、そこにはいつの間にかはっきりと目を開けているサクラと視線が交差した。その表情は疑念と不機嫌が混ざったようでもある。


「ユーキさん。なんか表情が下品だった」

「うっ!?」


 エロいでもHでもなく、下品という言葉選びをしたところは流石だろう。身構えている言葉の僅かな隙間を潜り抜けた一撃は、ユーキのハートにぐさりと食い込んだ。


「マリーの胸、凝視してなかった?」

「な、なんのことやら……」


 今回はやましい気持ちがあったかと問われれば、大いに有りだと言えるだろう。実年齢だろうが、肉体年齢であろうが、そういうものに興味が湧いてしまうのは生物的に仕方のないことだ。


「ほんと、男の人って単純なんだから……」


 サクラは大きくため息をついて、蚊の鳴くような声でぼそりと呟いた。


 ――――私だって、ないわけじゃないんだけどな。


 その言葉は誰の耳にも届くことなく消えていく。近くにいたユーキですら、問いただされた焦りで届いてはいても脳が認識できていなかった。様々な意見が駆け巡る脳内会議には、それ以外の情報を処理する余地などありはしない。


「ええと、その、詳しくは言えませんが、すいません。許してください。単純でごめんなさい」


 脳内会議の結論。全面降伏。ただし、詳細は明かさない。そこを話してしまえば、流石のサクラでも軽蔑するだろう。冷や汗を出しながらユーキは両手を合わせて、頭を下げる。


「そ、そこまで怒ってないんだけど……」


 ユーキの必死過ぎる剣幕に思わずサクラは仰け反った。

 それと同時に視界の端でドアが開く。入ってきたのはメリッサと昨夜出会ったアイーダだった。どうやら、昨夜同様にお茶を用意してきたようだ。


「公爵閣下からは御許可がいただけました。ここでは一時、彼女の専属として手取り足取りメイドの何たるかを、起きていようが寝ていようが叩き込むつもりです。クレア様、マリー様、私情を優先する駄メイドですが、ご理解を戴けると助かります」


 メリッサが頭を下げると、クレアが真っ先に片手を振って、笑顔で応える・


「まぁ、あなたの気が済むようにやってちょうだい。あたしは特に気にしないし、マリーはあんな感じで杖の育成に集中してるから、大丈夫」

「おう、あたしのことは気にしないでいいぜ」

「ありがとうございます」


 お礼を言うメリッサの背後で、とんでもない悪魔に出会ってしまった、というような顔で、放心状態のアイーダが立っていた。もしかすると、朝も早く叩き起こされて何か手ほどきを受けていた可能性もある。

 メリッサだけでなく、フェイなどの様子も見ていると、伯爵のせいではっちゃけているイメージが強いが、本人も部下たちも思った以上に練習や鍛錬などをひたすら真面目に取り組んでいる。ユーキも真面目に取り組むことは今まで何度もあったが、ここまで自己を押し出してまでやり遂げようとしたことは一体何度あったかだろうか。

 そして、それに対して巻き込まれながらも、なんとかしようとするアイーダ。気の毒だと思いながらも、心のどこかで応援したくなる。そのまま、アイーダが覚束ない足取りでお茶を運んでいく姿を追うユーキだったが、まだ魔眼が開いたままだということをすっかり忘れていた。

 メイド服の色が薄い緑や白色を放つ中、近くに来たアイーダの顔から順番に下へと視線が下がっていく。そのまま服の色を確かめるようにさらに下まで行くと、一際濃い色をした緑が――――


「ユーキさん?」

「えっ!? 何!?」

「さっきまで反省してた気持ちはどこに行ったのかなぁ?」

「いや、ちょ、待って。今のは違うんだって、少しメイド服が気になって」


 慌てて、首を振るユーキであったが、大きな声を出してしまったのが運の尽き。この部屋には、そういう発言を拾って揶揄ってくる悪戯好きな二匹の悪魔がいるのだ。


「ユーキ、メイド服に興味があるのか? なんだよ、言ってくれればいくらでも実家で着せてやったのに」

「ユーキ、流石に体格的には似合わ、ない?」

「何故、疑問形にした! というか、俺にそんなつもりは一切ない!」


 魔法をコントロールしながらもお互いに雑談を繰り広げる様を見て感心するべきなのか、呆れるべきなのか。複雑な表情を浮かべながらアンディとフェイは顔を見合わせた。

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