作戦通達Ⅴ
全員の視線がアンディへと向く。アラクネという種族であるならば、魔王が従えている可能性がある。そう発言したのは彼だったからだ。
「私も詳しい話は知りませんよ。それこそ、母親の御伽噺の中にあったことを思い出して、呟いただけですから」
申し訳なさそうにアンディは目を伏せる。だが、そこでサクラが食いついた。
「あの、どんなお話だったかお聞きしてもいいですか?」
「あまり、参考になるとは思えませんが……」
そう呟くとアンディはポツポツと昔聞いた話を思い出しながら語り始めた。
「ある新月の夜。星の声を聞くという乙女が魔王の到来を聞いたところから話は始まります。『北ではドラゴンが暴れ、未開の大森林からは見たこともない魔物が押し寄せてくる。暗き穴から魔王は手を伸ばし、天を黒雲が満たすであろう』と」
「聖教国の聖女のことか」
「乙女は信頼できる仲間と共に旅を続け、ドラゴンの怒りを鎮め、魔物の群れを止めることに成功するのですが、その中に出てくる魔物がいくつかいます。名前は語られませんが、その姿に関しては数種類、具体的に語られています」
アンディは指を一つずつ伸ばしながら、その特徴を挙げていく。
「全身が鮮やかな体長一メートルほどの毒蛙。触手と共に移動する巨大な花。そして、女性の上半身に下半身が蜘蛛の魔物」
「……俺の知っている御伽噺はそこまで詳しくなかったな」
騎士隊長は顎髭をなぞりながら、僅かに天井を見上げて思い出しているようだが、どうにも記憶にないらしい。ユーキは周りを見るが、それに対して頷いていたのは誰一人とていなかった。
「あたしも魔王と勇者の物語ってな感じでメリッサとか母さんに教えてもらったことはあるけど、具体的な魔物の話は聞いたことがないな。姉さんは?」
「あたしもないよ。まぁ、御伽噺はそもそも各家とか村単位で伝わるものだから、父さんたちが統治する前の話をしてるんじゃない? アンディって、元々ローレンスに住んでたんでしょ?」
クレアの質問にアンディが頷く。流石に各村や街の家庭の御伽噺事情など貴族が知るはずもない。
加えて、勇者の御伽噺は過去に魔王討伐が何度か行われているので、その数だけ存在する。当然、それは御伽噺の中では語られない「むかしむかし」のお話だ。
「だが、それなら魔王が復活したという風にも取れるな。まさか聖女様がファンメル王国に来たのは、それが目的か……?」
「(あ、これ、結構トップシークレットな情報だったか!?)」
聖女が勇者を探しに来ているというのは国民の不安を煽ることになる。その為、国王も秘密裏に事を運ぶように指示していた。目先の危険に囚われるばかりに口が滑ってしまったか。そうユーキが冷や汗をかきそうになっていると、アンディが首を振った。
「いえ、どちらかというと、魔王というよりはどこからか陸伝いに魔物が侵入してきた可能性が濃厚でしょう。先日の帝国の進軍に驚いて住処を追われた魔物、ということも考えられます」
「或いは、その帝国が運び込んだ魔物ってこともあり得る、か」
騎士隊長は眉根をさらに寄せて唸る。既にローレンス領における帝国との衝突は王都にはもちろん、公爵領にまで届いている。その際には、本来出現するはずのない魔物がダンジョンから出てきていたこともわかっていた。
つまり、この騒動はむしろファンメル王国を内部から弱体化させようとしている帝国の作戦ということも十分に有り得てしまうわけだ。
「まぁ、敵さんの正体は魔物であることはわかってるんだ。首を落とせば死ぬし、心臓ぶち抜かれりゃ死ぬ。それがわかってれば問題はない」
「……それならいいんですけど」
首を落とされても再生する化け物がいたり、いなかったり。ユーキの記憶は朧気だが、サクラたちのほとんどは恐ろしい蛇の化け物が頭の中に浮かんでいるようだった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




