駆け引きⅥ
フランは自分の杖を取り出して、軽く魔力を込めた。
「こんな感じで、私の杖は買ったばかりなので魔力の通りが悪いです。……と言っても、目で見ることはできませんが」
――――いや、それは俺の魔眼ならできるんだよな。
ユーキは喉元まで出かかったセリフを抑え込んで、静かに魔眼を開いた。先日の疲れも大分抜けてきたのか、痛みはほとんど感じない。
そんなユーキの視界に入ってきたのは、僅かに金色が混ざった赤色の光だ。見ようによっては火花を散らしながら燃えているとも感じられなくはない。
「自然に存在する川も同じで、何年もかけて山や大地を削って川幅や深さを変えていきますよね。ただ、山から運ばれてくる土砂などがないので、杖の中には魔力の通り道がどんどん形成されていくわけです」
「つまりあれか、何年もかけて使い続けた杖の方が効率が良くなるってことか?」
「そういうことです。そして、場合によっては一族でその杖を育てていくということもあります。同じ血筋なら、魔力の質も似通っているので扱いやすくなるということです。そういう意味ではオーウェンさんが使っている魔剣も同じですね」
人間の体に架空神経という通り道ができるのと同じで、杖の中にも同じように魔力の通り道ができていく。そう考えるとマリーがああやって嘆くのもあながち大げさではないことがわかる。彼女は生涯を通して、自分が育てていく相棒を無くした結果、一から杖を鍛え直さなければならないということだからだ。
「そいつは……ご愁傷様だな」
「しかも、ビクトリア様……もしかするとローレンス伯爵も入っているかもしれませんが、そのレベルの方からの杖だと……多分、相当いい素材で作られた杖だと思いますよ?」
「因みに高い杖って一本どれくらいなんだ?」
「ビクトリア様が使ってた大きな杖がありますよね? あれでコレです」
フランは笑顔でピースサインをしてくる。
「大金貨二枚とかか?」
ユーキの世界の価値に換算して約二百万円。そこそこの普通車がオプション無しで買えるかどうか位の値段だ。
「紅の魔女がそんな安い杖を使うと思いますか!? 大白金貨二枚です」
「ぶふっ!?」
価値にして約二億円。宝くじでも当てない限り一般人には手が出るはずもない。
しかし、同時に一体何の素材でできていて、誰が作り、そして売ったのかという疑問が脳裏に浮かぶ。それを見透かしたかのように、フランは胸を張って言い放つ。
「安心してください。売ったのは私の家ではありません」
「胸を張るな。流石にそれは予想できる。で、どこの富豪だ?」
「アラバスター商会ですよ。王都で最も栄えているあの商会以外にあり得ません」
その名前を出されてはユーキも納得せざるを得ない。何度か足を運んだことがあるが、魔眼では目が眩んでしまいそうになる武器が、あちこちに展示されていたのだ。おまけに並んでいた武器についていたのは誰もが聞いたことがあるような有名な聖剣・魔剣の類と同じ名前が付けられていた。
もし、それが想像上・神話上のものではなく、本当に実在していたのだとしたら。
そして、それが何の因果かユーキと同じようにこの世界に流れ着いていたのを発見されたのだとしたら。
その武器たちが持つ威力はもちろん、保有している特殊な能力が伝承通りならば恐ろしいものになることだろう。
鎧や盾を無視する剣や振っただけでその先にある山の頂を斬り落とす剣など様々だ。そんなものを持っている国がファンメル王国以外でも存在すれば、互いに抑止力となり得る。
しかし、その均衡が一度崩れれば、その先は――――
「――――普通に国家間戦争とか待ったなしじゃん」
「どういうことですか?」
「いや、平和な世の中に生まれて幸せだなってこと」
願わくば、その武器が向けられるのが人ではなく、魔王の類であることを祈るユーキであった。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




