殲滅戦Ⅷ
何とかして混乱を収めることに成功し、結界を維持したまま全員が抜け出すことができた。
まだ、暴れている何体かの敵もいるが、その多くが体を串刺しにされて痙攣をしている。もはや趨勢は決したといっていいだろう。
「怪我した者はすぐに距離をとって治癒を。一番多いのが火傷だと思うから、治療は慣れているはずだ。出血を伴う治療の方を優先するんだ」
オーウェンの指示に従って、騎士たちが続々と離脱し治療を始める。鎧を脱がされ、服の上から治癒効果のある水に包まれていく。少なくとも火傷を広範囲で負った者は、数日は身動きするのも厳しいだろう。
「ソフィ、何とかしてやれないか?」
「ここで全員の治癒をするような魔法を使ったら正体がバレかねませんから、できる範囲でってところです。でも、まだ警戒していた方がいいと思いますよ。まだ敵は残っているみたいですから」
ソフィの視線の先には水の壁越しに体を燃やし続ける敵たちの姿。恐らく、彼らも元村人で骨と皮だけになりながらも操られているのだろう。既に皮は燃え尽きて、骨と白い綿のようなものしか残っていない人もいる。
「やっぱり、全員腹に何かいるな……細長いものが何本か蠢いてる」
ユーキの魔眼に映るのは緑色の細長い筋が何かを引っ張るような動き。恐らく、白い綿のようなものを手繰り寄せているのだろう。その綿も薄く緑色に光っているせいか、中にいる敵のシルエットが見辛くなっている。
「だけど、この水の壁に触れると……ほら、ああやって水の球に閉じ込められるんだ。ああなったら抜け出せないぜ?」
マリーが杖をくるりと回しながらソフィへと近寄る。余裕そうにしているその手から杖が一瞬で消え去った。一瞬、自分がどこかに落としたのかと地面を見回すが落ちたような気配はない。
「おい、どこに行ったんだあたしの杖!?」
「マリー。それより、林の方を見なさい……。ちょっと、ヤバいもんが見れるわよ」
クレアが急いでマリーの前へと剣を抜いて躍り出た。
その視線の先には、腹がぱっくりと割れた人だった物の中から、いくつもの目が覗いていた。そのすぐ下にはマリーが持っていた杖が咥えられているようにも見えるが、炎が逆光になっていて、その姿はユーキでも認識できなかった。
「あ、待ちやがれ!」
下半身だけになった体だけで、その敵は炎の中へと消えて行ってしまう。
「ダメだ、諦めろ! あの中に入ったら、只じゃ済まないぞ!」
「だけど、アレ! 母さんがくれた杖なんだ。ちっくしょう、壊したらただじゃおかないからなぁ!」
マリーの叫びに驚いた何人かの騎士がびくりと体を震わせる。
少しばかり呆気に取られていた彼らだったが、その内、何かが漏れ出すような空気の音に気付く。何事かと辺りを見回すと、それが先程まで痙攣していた敵の体だということがわかった。
「何だ? 一体何の――――」
それが言い終わるよりも先に、動きを止めた体の下腹部から炎が吹き上がる。
それだけではない、空気を炎が一直線に走り、近くの騎士の腕や足、或いは武器に巻き付いていく。幸いにも、全員が水魔法は得意としていたためか、数秒で鎮火できたが、動揺が広がるのは避けられなかった。
「火を使う魔物ってことは、あの炎の中でも無事なんじゃ……?」
「そんなことは、ない。多分、あの炎なら、時間の問題」
アイリスが、燃え尽きた死体の方へと近寄っていくと、手に水の膜を張って、おもむろにその腹に手を突っ込んだ。
慌てたマリーが駆け寄ってアイリスの手首を握って、死体から引きはがす。
「お、お、お前、なんてもん触ってんだよ!? 素手で死体に触るやつがあるか?」
「じゃあ、水で覆った手袋してるから、オーケー?」
「そういう問題じゃ――――ってええええ!?」
アイリスが握っているものに気付いたようで、マリーは思わず尻もちを着いた。それを見ても、アイリスは慌てずに淡々と告げる。
「敵の死骸、燃え尽きる前に、確保」
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