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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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殲滅戦Ⅶ

 横に長く展開していた部隊を包み込むように上空に楕円の水の膜が広がる。やがて、部隊を完全に囲い込んで地面まで膜が下りると、もともと林を包んでいた膜と繋がった。


「合図と共に目の前に展開した水の結界を一時的に解除する。各々、全力で目の前の林に火の魔法を撃ち込め!」


 カウントダウンを始めたオーウェンに、魔法を使える者たちが一斉に詠唱を開始する。オーウェンが率いている騎士は水魔法には精通しているが、火の魔法はそれに比べると格段に落ちるのだろう。少なくともユーキの魔眼には、先程まで各々が放っていた光が急に弱くなるのを感じた。


「三、二、一――――放て!」


 何百もの赤色の閃光が林の中を駆け抜けていく。一秒ほど遅れて、爆音と共に奥の闇に光が幾つも灯った。

 それを見た騎士たちは更に詠唱を重ねて放とうとするが、そこに爆音が響く。


「いいねぇ。ちょっと手加減したけど、余波で結界が吹き飛ぶなんてこともなさそうだ」


 母である紅の魔女の手ほどきを受けただけあって、その威力は申し分なし。マリーの放った炎は瞬く間に広がり、どんどん燃え広がっていく。そこに畳みかけるようにユーキの少し手を抜いたガンド式火球が放たれた。

 マリーが広範囲を燃やすのに対して、ユーキの魔法は進路上にあった大木を十数本なぎ倒し、最後の着弾で一本の木を丸々炎上させた。ゲームに例えるならマリーは全体範囲攻撃、ユーキは直線貫通攻撃に近い。


「私も負けてられません!」


 マリーとユーキの魔法が燃やし尽くせなかったところを補う様に、フランの高速連射の火球が林に飛び込んでいく。「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とは正にこのことだろう。時々、手前の木々に当たって、火の粉が騎士の方に跳んで驚かせるのはご愛嬌だ。

 それを見て、負けていられないとばかりに騎士たちからも火の魔法が飛んでいく。本来、水を多く含んでいる木は簡単には燃え上がらない。それでもここまで早く燃え広がるのは、それだけ込められた魔力が多かったからだろう。


「よし、一度戻って様子を見よう。火に巻かれて、敵が向かってくるかも――――!?」


 咄嗟に反応できたのは敵の反撃を想定していたからだろう。目の前に人一人がすっぽり入る球体を作り出すと大きな水飛沫と共にジュッという音が上がった。

 異変に気付いてユーキも目を向けると、水の中で口から空気を吐き出しながらも藻掻く人の姿がある。肌はところどころ炭化し、肉も内臓もない白いものが詰まった中身が見えていた。


「くっ!? みんな、早く下がるんだ。まだ来るぞ!」


 オーウェンが叫んだことにより、騎士達も下がろうと一歩後ろへと足を踏み出す。

 その瞬間、火達磨になった敵が何人も騎士へと襲い掛かった。勢いのあるタックルに盾ごと倒され、組みつかれてしまう。


「熱いっ!! 誰か、早くコイツをどけてくれぇ!!」


 熱いと言わず、相手を跳ね除けようとする騎士も中にはいたが、多くは悲鳴を上げて助けを求める。隣の兵士が槍を捨てて、腰の剣を抜き放って斬りつけた。


「これで――――なっ!?」


 首半分を斬られながらも、何事もなかったかのように動き続ける敵。仲間の叫び声が再び響き、我に返った騎士達は、半狂乱になりながら斬り、刺し、殴りつける。それでも四肢を潰されない限り、敵は動きを止めない。

 オーウェンが片っ端から水の球を作り出し、閉じ込めていく。それも多勢に無勢、元々、水の制御は難しく、それを二桁単位で維持するのは非常に難しい。極度の集中状態を強制され、オーウェンの表情が引き攣る。


 ――――ズバンッ!! 


 そんな中、オーウェンが最初に作った水球の檻が弾け飛んだ。敵が抜け出したかと慌てるが、その敵の体の下半身が吹き飛んで地面に落ちていく姿に呆然とした。


「やっぱりそうだ……。オーウェン! 腹に何か潜んでる! 体の中に何かが寄生してるんだ!」

「な、何だって!?」


 ユーキの声にオーウェンは驚く。

 寄生するとなると、その存在は魔物しか考えられない。だが、そのような魔物がこの地域にいるなど聞いたことがない。むしろ存在していたというのならば、今まで発見されなかったのがおかしい。新種か突然変異か。色々な推測が頭の中を駆け巡るが、今は目の前のことに集中するべきだとオーウェンは思考を切り替えた。

 魔剣を一振りすると、騎士達に組み付いていた敵の火を消し去る。騎士の火傷を防ぐことはできたが、敵はまだ蠢いており、盾を避けて何とかして噛みつこうとしているようにも見える。


「全員! 腹を狙え! 中に魔物がいるぞ!」


 オーウェンが声を張り上げると、騎士たちも敵が倒せるものだという安心感からか、冷静に武器を振りかざして一人一人を屠っていく。

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