殲滅戦Ⅱ
「こ、公爵閣下……これは、その……」
「良い。むしろ、あのアレックスの下であっても、最低限の貴族の考えは理解しているようで安心した」
狼狽えるクレアだったが、それを気にせず公爵は前へと進み出る。慌てて席を空けようとするマリーも手で制して話を続けた。
「君らの考えていることはもっともだ。下手に対応をすれば、公爵に向けられる敵意のいくつかを貰いかねない。故に王都へと急ぐという手は私でも考える。ましてや王室の馬車を返却せねばいけないなら、なおさらな」
壊しでもしたら面倒では済まない、と付け加えながら口の端を持ち上げる。
「なので、ここは私自ら君たちにお願いをしに来たわけだ。これから、君たちが通ってきた街道に跋扈する敵を掃討する」
「ちょ、ちょっと待ってください。まさか、ここから出て街道で戦うと?」
「まぁ、そのようなものだ」
至極当然とでも言いたげな顔にクレアどころかアンディですら怪訝な顔を示す。
一歩前に進み出たアンディは発言の許可を貰うと公爵に尋ねた。
「ここは堅牢な城壁と閣下の魔法で守られています。ここから出て戦うのは危険かと」
「ふむ、お主も我が息子と同じ意見か。では問うが、危険、とは誰のことを言っているのだ?」
「当然、閣下とその騎士達です。相手の異常な能力は既に報告が上がっていると思いますが……」
アンディの言葉は途中で尻蕾になり消えていった。それは公爵の表情に落胆の文字が浮かび始めていたからだ。
落ちた視線を前に戻した公爵はゆっくりと窓の方へと歩いていくと、そこから見える街の景色を眺めながら溜息をついた。
「……明日の朝まで、この都市は封鎖され、日の出と共に我々は攻勢に出る。それに参加するかどうかをもう一度考えてほしい。特にマリー嬢の火力は優秀と聞く。参加してくれれば、被害も少なくて済むだろう」
「あ、あたしが……?」
ローレンス領での防衛戦は既に耳に入っているとは聞いたが、まさか公爵直々に指名をされるとは思っていなかったのだろう。狼狽えたマリーは、左右を見回して助けを求めるように各人の顔を見る。ただ、言っていることは事実なので、誰もが頷くのでマリーとしては孤立した気分だ。
「本来、村に向かうはずだった騎士と私で出撃する。水で防御陣と捕縛陣を敷きつつ、一人一人確実に殺していく予定だ。お主が参加してくれるのなら林程度は消し炭にしてくれて構わん」
その言葉には全員の心臓が跳ね上がりそうになった。
先日、妖精庭園を訪れた際に多くの妖精たちと言葉を交わしている。彼らは植物などに宿っている意思が具現化したもの。彼らと友好を深めた後に、木々を焼き払うことなどできるだろうか。
「できれば自然は破壊したくないですね……」
「優しいのだな。だが、それでは何も守れんぞ。優先順位を間違えないようにするのが貴族としての第一歩だ。詳しい説明に関しては参加が決まったら話そう。私はこれで失礼する」
言いたいことは言った、とばかりに踵を返して出て行く公爵。ユーキたちは呆然とそれを見守るしかなかった。扉が閉まってから数秒後、フランが口を開く。
「これって、拒否できるんですか?」
「一線を退いて隠居するとは言っているが、それでも現役の公爵家当主直々のお願いだぞ? できると思うか?」
「です、よね……」
お願いという名の強制。一度ならまだしも、部屋にわざわざ出向いてまで言ってくる念の入れよう。これを断ったら、一体何を言いふらされるか分かったものではない。マリーの父と母なら鼻で笑って一秒で忘れるだろうが、少なくともマリーたちはそこまでの胆力も実力も持っていない。
結局のところ、最初から逃げ道などなかったということだ。
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