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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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殲滅戦Ⅰ

 オーウェンは父親の口から飛び出た言葉に耳を疑った。


「ち、父上。今何と……?」

「何だ、聞こえなかったか。こちらから、あの街道に潜む敵を倒しに出陣すると言ったのだ」

「村に兵を派遣するのではなく、街道でですか? それでは、この街の利を生かしきれません! おまけに敵は街道の林に潜んでいてこちらを狙っています。たった一人相手でも騎士たちが翻弄されるほどです。集団で、しかも視界の悪いあの中で襲われたら一溜りもありません。おまけに空中浮遊の魔法まで……」

「ふんっ……まだまだ青いな。そのような戯言に構ってられぬ。箒もなしに空中浮遊など……ただのまやかしに過ぎぬわ」


 執務室に公爵の不機嫌そうな声が響く。

 最後の書類を書き終えたのか、椅子から腰を上げると、机に立てかけられていた剣を持ってオーウェンの横を通り過ぎていく。


「そのような体たらくでは、ライナーガンマを正式に継がせるには、まだ時間がかかりそうだ。頭でも冷やして来い」


 去り際に挨拶をするように、自然とオーウェンに言葉が突き刺さる。

 年季の入った扉の軋む音がやけに大きく感じられた。最後に一際強くバタンッと音を立てると執務室の中は静寂に包まれた。


「頭を冷やすのはあんただろ……。騎士たちがこんな近くで戦ったら、街にも被害が出るじゃないか。最初から籠城を決め込んだ方が守りやすいなんて僕でもわかるぞ」


 やはり寄る年波には父も勝てなかったか、とオーウェンは落胆して窓の外を見る。

 幸い、あの後に何者かが侵入したという知らせは入って来ていないし、騒ぎが起きている様子もない。何とかしなければならないが、その方法が思いつかない。


「父上の言う通りだ。こんなんじゃ、公爵なんかになれるはずもない」


 そう呟くとオーウェンは執務室を後にする。向かう先はユーキたちが通ってきた外壁の扉。せめて、対策できることは何かないかと情報を集めるためだ。





 一方、その頃。ユーキたちは馬車から公爵邸の一室に通されていた。


「参ったなぁ……、何をするのが正解なんだろ。貴族的に考えるなら、公爵に恩を売るチャンスだと思うけど、なんか違う気がするんだよなぁ」

「マリーがここまで悩むの、珍しい」


 アイリスが意外だとばかりに目を丸くする。


「そうですね。昔みたく、きっぱりさっぱりと気持ちよく自分の我を押し通すと思ったんですけど」

「ちょっと待て、ソフィ。そこは自分の意見を言うでいいじゃん。自分の我を押し通すって、ただの迷惑な人! って、あたたたたたあああ!?」


 頭を掻きむしりながらマリーが抗議の声を挙げるが、それはクレアのアイアンクローによって遮られる。必死で腕をタップするマリーをたっぷり五秒ほど持ち上げた後、ソファへと落とした。


「あんまり人様の家で騒がないの。それで、あたしとしての意見を先に言っておくと、ここはさっさと離れるべき。下手に関わると、汚名をこっちまで被せられることになる」

「そんな被せられるだなんて……」

「サクラ、この際だから言っておくけどね。貴族って言うのは清廉潔白じゃ生きていけない。見えないところで足の引っ張り合いをする生き物なの。既に公爵領では村ひとつを潰すという失態をしている。これを理由に他の貴族がいちゃもんをつけてくるなんて当たり前なんだ。公爵家だから敵がいない? 逆よ、逆。公爵家だからこそ、他の公爵家は何とかして蹴落としたいし、それ未満の貴族も何らかのおこぼれに預かりたい。そんな時にあたしたちが出張ってヘマをしたら、どうなると思う?」


 いくらサクラと言えども、こちらの国に来てから日が浅い。ファンメル王国の内情に詳しいとは言えず、言葉に詰まってしまう。それはユーキも同じだった。

 異世界――――しかも貴族という自分が暮らしていた生活とは程遠い存在には、まだまだ理解不足だった。


「答えは簡単よ。一部の公爵には手を出せない奴らは、あたしらに因縁を吹っ掛けてくるってわけ。特にユーキの場合、他国の人間とはいえ騎士の叙勲が確定しているからね。気に食わない奴はたくさんといるだろうね」


 その言葉を聞いて、ユーキは姿も見えない名も知らない貴族に悪態をつきたくなった。気持ちを落ち着けようと深呼吸したユーキの後ろから扉が開くと共に声が響く。


「なるほど。では、私からの提案は受け入れてもらえなそうだな」


 そこに立っていたのは、ライナーガンマ公爵その人だった。

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