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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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絡繰り人Ⅳ

 最初は何かが飛んでいるという印象を受けただろう。

 だが、その姿が大きくになるにつれて、それが飛んでいるのではなく、人の形をした何かが長距離を跳ねて移動してきていることがわかった。誰もが異常事態と認識し、手に武器をもって注視する。流石に公爵邸の庭先で勝手に魔法を使うことは伯爵の騎士と言えどもできず、反撃の準備をするくらいしかできなかった。


「まさか、この距離を跳び越えてきた……!?」


 オーウェンの驚愕と共に、その人型生物が王家の馬車の上へと音を立てて着地した。人型というには、その動きからして異常であるのは明らかだった。腕は肘を張り、脚は蟹股という言葉が何だったのかという程に開かれて、地面を這う蟻を想起させる。

 ユーキたちが、その正体を視認して動くよりも早く、馬車から甲高い放出音が響いた。


「馬車から、魔法!?」

「王家の馬車だぜ。前回は大妖精っていう例外で反応しなかったけど、馬車に対して外側から危害を加えた場合は、反撃魔法が発動するってことさ」


 ファンメル王国は水の魔法を扱う術に長けた者が多い。襲撃者を攻撃した魔法も水魔法であったのだろう。圧縮した水を超高速で撃ち出した跡が空中に細かい水となって残り、舞い落ちながら太陽の光を反射していた。

 一瞬、その美しさに見惚れそうになるところだったが、すぐに視線を襲撃者へと向ける。先程は全体のおぼろげなシルエットしか見えなかったが、今は魔法に撃ち抜かれて地面へと倒れているので、しっかりとその姿を見ることができた。

 そして、その姿を見るべきではなかったと後悔する。


「うっ……」


 ()()女性だったのだろう。肩までかかる金髪にすらっとした手足。だが、その手足は異様なまでに細くなり、骨に皮膚が張り付いただけのようにも見える。逆に腹は大きく膨らみ、まるで中に別の化け物が潜んでいるようにすら思えた。

 何より、その眼球は真っ黒に染まり、既にこの世に生きる人間ではないことを示している。呻き声を上げる口からはほとんど歯が見えず、代わりに吸血鬼を思わせる様な発達した犬歯が覗いていた。


「構わん! こいつに攻撃するんだ!」


 オーウェンの一言で、仰向けになったままの襲撃者に魔法が殺到する。

 四方八方から押しおよせる水魔法。先程の馬車から放たれた魔法と同系統だが、威力は少しばかり劣るだろう。だが、それを補って余りある量。五、六発程度では耐えられても、数十発と喰らえば魔法障壁があっても貫通しうる。

 既に馬車の反撃で胸のあたりを貫かれているのだ。魔法障壁がどうこうではなく、生命体として致命傷を負っている。その状態で受ければ、確実に絶命していただろう。


「やった……!?」

「それ、絶対に死んでないやつだ……」


 細かい水飛沫が舞い、視界を狭める中、ユーキは警戒して魔眼を開く。青い光が煌めく中に、暗い緑色の影が横切った。地面の石畳の放つ色とは明らかに違うのですぐに判別がつく。馬車の下を潜り抜け、公爵邸の方へと這って行く。

 ユーキは右手の人差し指をそれに合わせながらガンドを放とうとするが、それをサクラが手首を握って止めた。


「ユーキさん。もし城に当てたら――――」

「洒落にならないな」


 魔法学園の城壁に穴を開けるほどの威力を持ったガンド。この城も同じミスリル原石で作られているため、下手をすれば同じ結末を迎えかねない。いくら敵を倒すためとはいえ、そんなことをしたら賠償請求はいくらほどになるのだろうかと考えるとぞっとする。


「こうなったら、場所だけでも知らせないとな。……目を離した隙にどこ行った!?」


 サクラと会話して視界から外したのは、数秒にも満たない。それにも関わらず襲撃者は地面から姿を消していた。すぐに視界の確保にオーウェンが空を漂う水を吹き飛ばすが、それでも姿は見えない。気分としては夜中に遭遇したゴキブリを探すくらい最悪な状態だ。

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