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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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絡繰り人Ⅰ

 異常に気付いた時には、すべてが手遅れだった。

 手練れの若い騎士を三人ほど送ったところ、戻ってきたのは一人だけ。それも大分怯えており、最初は何を言っているのか誰も理解できなかった。魔法で強制的に眠らせて、目が覚めた時にはかなり落ち着きを取り戻していたが、それでも顔色は真っ青だった。

 その者が話すには、村では誰もが普通に生活をしているように見えた。だが、その目は虚ろでどこか焦点が合っていない。体の動きもどこかぎこちなく、まるでどこかを怪我しているようにも思えたという。

 思えば、ここで退き返していれば良かったのだが、それを思いつくほど三人は、その魔物の知識が豊富であるとは言えなかった。

 村の中央にある村長宅で話を聞こうと屋敷に入った時に、初めてそこで騎士たちは自分たちが危険な化け物の巣に自ら飛び込んでしまったのだと気付いたらしい。

 最初の一歩を踏み出した騎士の一人が天井に吊り上げられ、一瞬にして首から下だけが切り離されて落ちてきた。後は必死に村の外に向かって走ったせいか。ほとんど記憶には残っていない。ただ、村人のほとんどが自分たちを追いかけてきて捕まえようとしていたことだけは鮮明に覚えている。もう一人の騎士は、その人波に揉まれて消えていったとのことだ。


「彼らも戦闘に関しては、それなりのものと送り出したのだが、戦闘力以前の問題だった。いくら油断していたとはいえ、そこらの敵に後れを取るほど軟弱ではない。正体不明の敵だが、彼の証言から察するに間違いなく魔物の仕業だろう」

「……それがわかったのが、つい先日。何とか村へと出発する前に連絡が届き、こちらに来ていただいたということです」


 二人の言葉に呆然と聞き入っていたユーキたちだったが、真っ先にクレアが我に返る。


「その……まさかとは思いますが、先程、城門近くから火球が上がったのは……?」

「もちろん、その村の住人たちがみなさんを追いかけてきていたからです。あと少し遅ければ、あの林に挟まれた街道で囲まれていたでしょう」


 クレア相手に丁寧な言葉遣いをすることはオーウェンとして思うところはあったのだろう。だが、そこは公爵家の次期当主。完璧なポーカーフェイスで問いに答える。


「村人の数は?」

「幸か不幸か、あそこは小さな村でな。大体三百人ほどだ」


 口ではそう言っているが、心の中ではこの事件を引き起こした存在に対して腹が立っているのは間違いない。公爵の苦虫を噛みつぶしたような表情がそれを物語っていた。例え三百人であろうとも、それは自分が支配すると同時に保護すべき対象である。それが貴族としての務めであり義務であると、その目が恨みと怒りの籠った光で爛々と輝いていた。


「父上。今後のことについては、どこまで伝えしますか?」

「……現在、我々のこの領地にいる騎士の半数を村に送りこむかどうか考えているところだ」


 公爵がいて万全の防御と言えども兵は必要。騎士の半数というのが実際どれくらいの量なのかは判断が付かないが、辺境伯と同規模だとすると、所有する領地から集めるだけ集めれば数万はいてもおかしくない。問題は、この街の中にどれだけ残っているか、だ。

 ユーキが不安そうにしていると公爵と目が合った。


「……現在、ここの騎士の人数は千人を下回っている」

「じょ、冗談です、よね? だって、こんなに広い街ですよ!?」


 マリーが戸惑いながらも声を挙げるとオーウェンが首を横に振る。


「残念だけど、本当です。先日、帝国が進軍してきたのは、あなた方が一番良く知っているでしょう。父の保有する騎士たちは、その対応で少しばかりここを離れています」

「ここはローレンスからは離れているからな。王族の馬車ならともかく、軍隊が警戒しながら進軍し、ここに攻め入るならば到着するまでに一月はかかるだろう。そう思っていたのだが、まさか内側から問題が噴出するとはな」


 遠目に見ても公爵が握った拳に力が入るのがわかった。節くれだった指ではあるが、皺はなく未だその手に、若者には負けない力があることが伺える。

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