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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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不穏な気配Ⅴ

 中で待機していたライナーガンマ領の騎士に連れられて、公爵がいる城に向かうことになった。

 街の人からは驚愕の視線を投げかけられる。特に老齢の人は頭を下げたり、跪いている様子が見えた。ユーキは思わず、「どこの参勤交代だ」と考えてしまうが、よく考えてみればこの国における王族はそれよりも遥かに上の存在と見ても間違いではない。

 王族どころか貴族でもないのに――――叙勲されかけていることはこの際考えないこととする――――この馬車に乗っていることが途端に申し訳なくなってしまう。


「何だろう。すごい体がむずむずする……」

「わ、私も、ちょっとこの視線には耐えられないかも」

「慣れだよ慣れ。回数こなせば、あたしたちのように振舞えるぜ」


 この中で挙動不審になっているのはユーキとサクラの二人であった。クレアやマリー、アイリスたちは貴族の付き合いやらなんやらで慣れているようで、別段、普段と同じようにしながらも佇まいだけは微妙に変化している。

 姿勢や表情は風格を残したまま、口調だけがいつもと同じなのには違和感しか感じないが、何度も経験していれば、確かにできることなのだろう。ただ、その一方で、フランが動じずにいることにサクラは不思議でしょうがなかった。


「ふ、フランさんは何でそんなに落ち着いていられるんですか?」

「あはは、商売やってると色々な人を相手にするので、視線くらいならへっちゃらですよ。カウンター越しに怒鳴りつけてくる厄介なお客さんとかの前の方がよっぽど緊張します」

「慣れって、そういう、もの?」

「そういうものです」


 アイリスは想像がつかなかったのか首を捻る。

 逆にユーキは何となくクレーマーに対処するフランの姿を想像して、自分より若いのにしっかりしていて、逞しく生きるフランに涙が出そうになった。何故、こんなに頑張っている子が不幸な目に遭ってしまったんだろうか、と。


「さぁ、もうすぐ着きますよ。あれがライナーガンマ公爵の城のようです」

「あたしの家とはまた違う感じだな」


 ローレンス伯爵の城は国境警備の要だった。高いところから街を一望でき、状況を把握して兵を向かわせることもできれば、魔法で狙撃することもできる。所謂、高低差を利用した防衛方法だろう。


「ここはね。ライナーガンマ家が守ると堅牢になり、ライナーガンマ家が攻めると脆くなるように作られてるの」

「はぁ……同じ戦法を使えば、誰が攻めても守っても同じになると思うんだけど」

「ここの周囲の水はライナーガンマの血を引くものにしか扱えないようにされてるようですね。私と言えども、そう簡単には水の支配権を奪えないようです。先程も慣れていなかったとはいえ、偵察魔法を一つしか作れませんでしたし」


 ソフィの言葉にユーキは腕を組んで考え込んだ。

 もし、敵がここを運よく攻め落としたとするならば、王都へと攻め入るための最前線の拠点として、ここを橋頭保(きょうとうほ)とするだろう。だが、取り返そうとライナーガンマ家が動けば、堀の水は意味をなさなくなる。

 窓の外に見える、ほんの少し高いところに建てられた城を見て、少しばかり背筋が凍るような気分になった。

 堀の水が意味をなさなく成るどころの話ではない。水攻めで城以外の全てを水没させて敵を閉じ込めることもできる。堀の水と街の中の体積はだいぶ違うが、水は川からいくらでも引っ張って来れる。つまり、ここを攻め落として占領したが最後、ここに閉じ込められて死を迎えることになるということだ。


「……えげつないな」

「その様子だと、この街の防衛方法には気付いたみたいだね。攻めづらく、損害を出して奪ったところで城から牢獄に早変わりする。戦う前から攻めたくない、攻めたところで旨味がない、そう思わせることで敵を躊躇させる。そういう場所なんだ」


 ただし、それは()()()()()()()()()()()()可能性がある戦法でもある。

 そこまで気付いていたからこそのユーキの呟きであることを、フェイもわかっているようだった。

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