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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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魔力酔いⅦ

 大広間に辿り着く前に、ふと先頭を歩いていたサクラとクレアが立ち止まる。


「なんだよ。何かあんのか?」

「あの、何か騒がしいなと思って」


 後ろからマリーがサクラの肩越しに前の様子を窺う。

 そこには騎士たちが急いで荷物をまとめ始めているように見えた。ある者は部屋に置いていた道具や装備を外に運び出し、ある者は握り飯片手に外へと飛び出していこうと駆けていく。


「出発って明日じゃなかったっけ?」

「マリーの言う通り、今日はここでもう一泊、の予定」


 不思議そうに見ていると、装備を着けかけた若い騎士の一人が気付いて近寄ってきた。


「みっともない格好でスイマセン。その様子ですと、まだ隊長には会っていないみたいですね」

「あぁ、何かあったのか?」

「私にもさっぱりです。ただ出発が早まったということだけはわかっています。少しばかり強行軍で動かなければいけないようでして。とりあえず、皆さんは隊長を探されると良いかと。では、失礼します」


 腰に付けたポーチのベルトを閉めながら、外へと向かう廊下を駆けて行ってしまった。


「急がなきゃいけない理由って何でしょう?」

「さあね。あたしが考えるにそこまでヤバそうな雰囲気は感じないけど……少なくとも、ユーキの時みたく、何かの厄介事じゃなければいいかな」

「悪かったな。攫われちまってよ」

「後あたしは一応、腹に風穴開けられた側だから、そこのところ責任取るってことでよろしく」


 ウィンクして、ユーキの肩を叩くとクレアは騎士たちの間を通り抜けて、アンディを探し始める。一瞬呆けていたユーキだったが、すぐに追いかけると釣られて周りもそれに従う。

 辺りにはガチャガチャと金属鎧が擦れる音が鳴り響く。ユーキは内心で夏の熱さによく耐えられるものだと感心してしまう。魔法で多少は楽にできているとはいえ、限度があるだろう。そんな自分も温度調節という謎の機能が付いたコートを着ているので、普通の人から見たらユーキの方が異常者に見られかねない。

 騒がしい中を見回しながら進んで行くと、ちょうど廊下の突き当りの向こうからアンディが歩いてくるところだった。


「ちょうど良かった。みなさん、少し予定外のことが起こりまして……」

「どうしたんだ?」


 額から汗を垂らすアンディにクレアは一言短く問う。


「先ほど、ライナーガンマ伯爵から早馬が来ました。できるだけ早く本領地に来るように、と」

「理由は?」

「今はまだ……」


 その言葉にクレアは眉を顰める。

 ライナーガンマ公爵は、現国王が頼りにする重鎮の一人だ。少なくとも、ローレンス伯爵と違って下らないことで呼び出したり、無駄なことをしたりはしない人柄。むしろ、娘であるクレアは、公爵の息子のオーウェンと仲が悪い一方で、普段から父よりも信頼できると言い切ってすらいる。

 そんな人物が温泉宿で疲れをとって楽しんでいる――――と普通なら考える――――人たちに出発を早めるよう急かすのには、何か理由があるに違いない。それはアンディも同様だったからこそ、クレアに報告する前に騎士を動かしたのだろう。


「出発は?」

「二時間後を予定しています」

「そうか。じゃあ問題点は食料関係とかか?」

「その点は主人のご協力もあり、いくつか軽食を用意してもらっています。その分、代金は明日の分まできっちり払わせていただきますが」


 妥当だろう、とクレアは頷くと振り返った。


「昼飯食って、温泉入って、出発する。以上」

「…………え、それだけ?」


 思わず勇輝は本音が零れ出る。そんな勇輝をクレアは笑い飛ばした。


「あぁ、そうだ。みんな各々で簡単とはいえ魔法や運動で力を使った後だ。食べる物も食べておかないといざって時に動けない。後、魔法で綺麗にしたとはいえ、湯を浴びるのはそれはそれでいい。特にここの温泉に来る機会なんてほとんどないんだ。最後に一回浴びておくだけでもいいと思うぜ」

「……本当は姉さんが一番入りたいんじゃないのか?」

「否定はしない」


 アンディはその会話を聞いて呆れたのか、単純に時間の心配をしたのか。ユーキたちからは、その心情を推し量ることはできなかったが、小さくため息をついた後、アンディは頷いた。


「他の騎士たちには準備と昼食を交代で行わせます。みなさんはクレア様の言った通り、この宿の最後の休息をお楽しみください。あぁ、ユーキ君とサクラさん。あまり長風呂すると症状がぶり返すかもしれないから気を付けてくださいね」

「「は、はい」」


 チラリと横を見るとサクラと目が合った。その頬はまた赤く染まっていた。恐らくユーキも同じような顔をしているあろう。せっかく、お互い忘れかけていたのに朝のことを思い出してしまった。

 この後、馬車に乗った後もしばらく二人の顔が赤いままだったのは温泉だけのせいではないはずだ。

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