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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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魔力酔いⅤ

 一度、休憩を挟み、二度目の挑戦となった時にユーキは右肩の痛みが和らいでいることに気が付いた。


「あれ……? そんなに痛く、ない?」

「おーい、ユーキ。さっさと行くぞ」

「おう。頼むよ」


 再び迫りくる火球を右へ、前へと体を捻り、脚を動かして躱していく。それでも、体との距離は拳一つ分以上は開いている。フェイからすると、それでもまだ多い、とのこと。

 熱風を感じる程度の距離で初めて成功した、というのだからたまったものではない。それはもう躱しているのではなく、掠めているレベルだ。


「ユーキ、失敗してもソフィが直してくれるから、思いっきり当たっちゃえ」

「おい、今、本音が、出ただろ!?」

「気のせい、気のせい! ほらいくぜ!」


 マリーは陽気に笑いながら、火球のスピードを僅かに早める。恐らくは、彼女のことだ。ユーキには悟られないように悪戯心でやっているに違いない。

 それをユーキは躱せない自身に悪態をつきながら挑み続ける。傍からすれば、この暑い日差しの中でよくやるもんだ、と呆れられるだろう。


「そういえば、大分動きが良くなってきたみたいだけど、ソフィさんから見てどう?」

「そうですね。少なくとも、腕の感覚は戻り始めているんじゃないでしょうか。纏わせた水から右腕が動こうとしている振動を感じます」

「そう。じゃあ、明日までには間に合いそうかな?」

「本調子とまではいかなくても、日常生活に困らない程度には治ると思います」

「……良かった」


 杖を動かしながら、サクラはユーキの方を見る。必死で火球を避ける姿を見守っていると、調子よく左右からの攻撃を躱しきることができていた。ただ、その表情は不満気で、ギリギリで躱すことができないことに苛立っているようにも見えた。


「ユーキさん。肩の力抜いてー。顔、怖くなってるよ!」

「怖い顔じゃなくて、集中してるのっ!」


 そう答えながらもユーキは眉間を中指を折り曲げてぐいっぐいっと何度もマッサージする。そこにマリーの火球が正面から襲い掛かった。


「あっぶね!? 何すんだよ!?」

「それはこっちのセリフだって。避けきってたんだから、さっきのは続行だぜ?」

「あんた、本当に性格悪いね。そういうところ、母さんそっくり」


 何をするでもなく、ボーっと見ていたクレアも流石に気の毒に思っただろう。ユーキは自分への援護射撃にもっと言ってやれ、と心の中で拳を振り上げる。その直後、足元に二本のナイフが突き刺さった。


「でも、ユーキ。油断してたら死ぬぞ」

「あらクレア様。奇遇ですね。私と同じことをなさるとは」

「何年一緒にいるんだ。メリッサのやることくらい、何となくわかる」


 ――――え、あたしはわからなかったんだけど。


 マリーが目を点にしながら、呆然とした表情で二人を見る。

 その一方でクレアとメリッサは口の端を僅かに上げて、ユーキへとダメ出しを開始した。


「ユーキ。当たるのにビビり過ぎ。今は当たってもデコピン程度の痛みだろ? もっと積極的に行こうぜ」

「ユーキ様。動きに無駄が多すぎます。むしろ、自分から当たりに行くように動いて、寸前で身を躱す方がいいかと」

「それができるんだったら苦労しないっ! 誰だって痛いのは嫌だろうが!?」


 我に返ったマリーの火球から逃げつつ、ユーキは反論を述べる。

 クレアたちの言葉は、注射が痛いから嫌だと泣き喚く子供に言い聞かせる姉のように見えるが、どう考えてもユーキの言っていることの方が正論である。

 ただでさえ火というのは風や水と違って、火傷という経験しやすい痛みを想起させる。おまけに切り傷とは違った独特の痛みが動かさなくても続く。

 それに加えて、火球とはいえ揺らめいており不定形で動きが分かりにくい。これが槍や拳といった物体なら目で捉えやすいのだが、火球にはそれができないのだ。

 ユーキは歯を食いしばりながら体を捻り、脚を動かしていく。魔眼が使えれば、多少は先読みができるので、上手く体の位置を合わせることができるのだが、今はそれもできない。

 そこまで考えたときに、メリッサの言葉が蘇る。()()()()()()()()()()()()()。それは奇しくも魔眼で見えている光の先に体を合わせて動かせればいい、と考えていたユーキと同じ動きになるのではないだろうか。

 魔眼は発動できないが、やろうとする動きのイメージがやっと理解できた。


「おや……表情が変わりましたね? 何か掴んだのでしょうか」

「さぁな。ユーキだったら、とりあえず面白そうなことしてくれる予感がするけど」


 クレアとメリッサが言葉を交わし終えたと同時に、火球がユーキへと迫る。それに対して、ユーキは真正面に足を踏み出した。


「「――――あっ!」」


 二人とも、その光景に思うところがあったのだろう。口から思わず声が漏れてしまったと同時に、既に次の惨状が目の前に広がっていた。


「――――がっ!?」


 それはユーキの顔面で火球が炸裂し、顔から煙を噴き上げているものだった。

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