魔力酔いⅣ
「あっつぁ!?」
威力を落としてあるため、髪の毛が燃えることもなければ、皮膚が裂けたりすることもない。それでも魔力は多少は存在している為、それなりに痛みは感じるものだ。
「なるほどね。母さんとの訓練と似ているけど、今回はユーキのリハビリ目的だから、こっちは緊張しなくて済むぜ。あ、わりぃ、ユーキ。思ってたよりも魔力多かった?」
「あぁ、大分な。次はもうちょっと魔力少なめで頼む。もっと多かったら当たる場所によっては怪我するか、気絶するかしそうだからな」
苦笑いしながら、視線を切る。それが再開の合図だと理解できたようで、マリーは杖を軽く振って、火球を動かし始めた。
距離十メートルから放たれる火球を避けるのは難しくはない。むしろ、もっと近い距離から放たれるドッチボールの方が避けるという点では難しいだろう。ただ、この訓練の目的は軽い運動で体内の魔力を活性化させることと、ギリギリで避けるという感覚を身に着けるためだ。
この練習を始める前にフェイが忠告していたことをユーキは思い出す。
「君は攻撃に対して過剰に避け過ぎる時がある。軍の進軍と違って、冒険者としてモンスターの群れに突っ込む時に、魔法であれ矢であれ――――或いは剣であれ、無駄に動いて隙を作るのはあまり良くない」
「一応、ガンドで応戦という手もあるけど」
「使える手段は多い方がいいだろう? 今みたくガンドが使えなくなったら、左手一本で立ち向かわなきゃいけないし、ガンドが使える状況でも相手が魔法を撃ってきたら戦況は動きにくくなる。そんな時にはギリギリで躱して相手に技を叩き込むためには、眼と体の感覚をしっかりと掴んでおかなきゃいけない」
「なるほどね……。頑張ってみるよ。ほどほどにな」
そう、あくまでリハビリ目的が主であるはずなのだ。
辛く体を動かせればいい、そう思っていたユーキではあるが、意外にこれが難しい。
「あっつ!」「いたっ!」「うおっ!?」
熱風が掠め、肌の上で爆風が弾け飛ぶ。とてもではないがギリギリで避けるというのは、恐怖心を無理矢理抑え込むことが前提になっている。
これでまだ基礎段階だというのだから、その先に待っている「特訓」のレベルが余計に恐ろしくなってくる。
「どうしたんだい? もう諦めるかい?」
「ふっざけんな。もっとやれるに決まってるだろ」
汗を顎から垂らしながらユーキは、炎から目を離さずに吠える。
真正面の炎はわかりやすいが、逆に左右両方を同時に警戒するというのが難しい。視界の端から端までに納めようとしても、人間の構造上限界がある。
だから一方に集中すると、悪戯好きのマリーとしてはニヤリと笑みを浮かべずにはいられなくなるわけだ。
「ほい、隙あり!」
「あ゛っ、マジか!?」
たった十分の内に数十発も喰らってしまい、フェイもこんなはずではなかったと頭を掻く。
フェイの予想では少なくともユーキの身体能力なら、これくらいはできるだろうと想定していたようだが、意外にもユーキは苦戦していた。
「ユーキさん。頑張って!」
「おう、任せとけ」
サクラは既に魔力が回復しているのか、杖の先に火球を作り、マリーと同じように移動させる練習をしている。フランも、その横で同じ練習をしているのだが魔力量のコントロールが甘い。サクラがピンポン玉サイズなのに対して、フランのは拳よりも大きくなってしまって慌てている。
それを見ながらフェイはユーキとサクラを見比べて首を捻った。
「……二人とも魔力をかなり使ったはずなのに、圧倒的にサクラさんの方が回復が早い。いや、ユーキの方が圧倒的に遅い、のか?」
どちらも昨日の戦いで魔力を使い果たした。その直後はユーキの方が動くことができたが回復は遅く、逆に気絶するほどの状態だったサクラが今は元気に動けている。使う魔法の系統や魔力の動かし方の違いで、ここまで差が出るというのは聞いたことがない。身体強化くらいしか魔法を使わないフェイとしては、その疑問を呟くことはしても、それを誰かに問いかけることはしなかった。
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