魔力酔いⅡ
「ちょ、ちょっと、サクラ。何やってんのさ!?」
「え? ユーキさんが利き手使えないから、こうやって食べさせてあげてるんだけど……」
当然のように言い放つサクラにへ何を言おうかマリーは数秒悩む。その末に彼女は顔を赤らめながら、幸せそうに口を動かすユーキの脇腹へと拳を放った。
「何故にっ!?」
「お前、一度地獄に行った方がいいぜ。この唐変木がっ……!」
そのままマリーは正面を向いて自分の朝食へと取り掛かる。
頭上に「はてな」をいくつも浮かべるユーキであったが、すぐにサクラの差し出してきた食事の方へと意識が向いた。そんな姿を見ながらマリーはイラつきを露にする。
朝早くからユーキがサクラと一緒に添い寝していて驚かされたと思えば、自分が幼かった頃の両親のようにサクラが食事を食べさせるなど精神的にダメージが積み重なっていく。これで二人が未だに付き合っていないこと自体がマリーには信じられなかったのだろう。何とも言えない表情で、二人の様子をチラチラと観察していた。
「まぁ、とりあえず、今日はゆっくり過ごしてください。彼の抜けた分の警備はこっちで何とかします。結局のところ、護衛できる人物が集中して動いてくれていた方がこちらも守りやすいということが、わかりましたので」
アンディは和の国の形式に合わせて手を合わせると、軽くお辞儀をした。
「フェイ。君もマリー様の側にいてくれ。あれこれ考えてみましたが、最終的にそれが安全でしょう。ついでにユーキ君の様子も見てあげてください。多分、このままじっとしてはいれないでしょうし」
「わかりました。無理にでも安静にさせておけば――――」
「違う違う。むしろ、ちょっとくらい体を動かしてあげた方がいいってことですよ。それくらいの方が彼にはちょうど良さそうですから。じゃあ、後は頼みましたよ。宿の敷地内なら出歩いていただいて構いませんので」
そう言うとアンディは他の騎士たちに目配せする。それを合図に談笑していたおっさん騎士たちが立ち上がった。
「他の若ぇ連中も、そろそろ立ち寝入りする頃かもな。さっさと代わってやらねぇと」
そう言って笑いながら部屋を出て行く。
残ったユーキたちも、ほとんどが朝食を食べ終わっているのだが、ユーキとサクラはまだ少し残っていた。
「……え、後の時間。ずっとこの状況見せられるの?」
「ありがとう、サクラ。残りは左手でも食べられるから」
マリーの表情が硬くなるが、ユーキの一言でほっと一息つく。
ユーキ自身も羞恥心がないわけではなく、むしろ、マリーたちはこの状況に取り残されるには、絶対に居にくいだろうと理解していた。
そんな中、アイリスがぼそりと呟く。
「マリーがああいうことするのは、いつになるのかな?」
「うるさいっ……!」
「あうっ!?」
アイリスが反応する間もなく放たれたデコピンの直撃を受けて額を押さえる。
そこまで威力を込めたものではなかったが、アイリスは驚きで額を何度も擦って無傷であることを確認していた。
「大体な。そういうのはあたしよりも年上な姉さ――――すいません、なんでもありませんでした」
「別に、そういうのはどうでもいいの。あんたも自分の心配をしておいた方がいいわよ。それより、今は現状の守りが最適か。或いはユーキの腕をさっさと治せるかを考えた方が得策。その一方で、息抜きもしておいた方がいいとは思うんだけど、その辺フェイはどう思う?」
軽々と姉の地雷を踏んでいくマリーではあったが、気にせずクレアは今後の行動について確認を取ることを優先したようだ。
「彼の腕はソフィさんに任せた方がいいかと。ただ体を動かすという点でなら、左手だけでもできる鍛錬はありますし、もっと言うなら両手が使えなくてもできることはあります。スペースもそれほど取らなくていいですし、マリーたちの訓練にもなるかと」
「へっ? あたしたち?」
フェイの口から自分の名前が出て、きょとんとするマリー。それに対して、嫌な予感がして顔を顰めるユーキ。震える箸からご飯がぽとりと零れ落ちる。
「食べ終わり次第、外の庭に行こう。あそこなら多少は動けるからね」
「庭の木とか傷つけるなよ。ああいうの育てるの大変だからな」
「安心してよ。そんなに大変なことじゃない。少なくとも、君と初めて会った時ほどきついものとは感じないはずだよ」
アンディに連れられた騎士団の鍛錬では、運動不足の体で朝っぱらから走りまわされて、胃の中のものを出しそう――――実際にはその後吐いてしまったが――――になっていた時をユーキは思い出した。
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