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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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微睡みの中でⅤ

「――――で、何か言いたいことはある?」

「いえ、何もないで――――ぐっほぉ!?」


 自分が覚えている限りのことを話した後、フェイからいい笑顔のまま腹に一発拳が叩き込まれた。

 その横ではフェイとユーキを交互に見ながら、オロオロと慌てるサクラがいた。


「まったく……君の場合、悪気なくそういうことをするもんだから性質が悪い。一応も何もないけど、マリーたちは貴族だぞ。夜中に忍びこんだと知られたら、普通は即刻処刑とかされても文句言えないからな」


 仁王立ちするフェイの後ろから、マリーの声が上がる。三つ折りにした布団に背を預けながらフェイとは対照的にリラックスしきっていた。


「どうかなぁ、うちの両親だったら意外と寛容そうだけどな。父さんとか絶対大笑いするんじゃないか? 『俺の娘の部屋に忍び込もうとするとはいい度胸だ。ちょっと修練場で話しようか』ってな」

「マリーさん。それは多分、話し合いじゃなくて一方的な虐殺が起こる気がするのですが……?」


 サクラと同じくらい、狼狽えているフランは呟く。どうやら、ここにいるフェイ以外はユーキが同室で寝ていたことに対して、あまり負の感情は抱いていないようだ。


「フェイの言いたいこともわかるけどね。あたしたちとしたら、ユーキはそういうことする奴じゃないってわかってる。まぁ、夜這いの一つでもかけられたら、女としての魅力があるってことで、それはそれでいいじゃないか」

「よ、夜這っ!? い、いえ、それはマズイんじゃないですか!?」

「フラン。勘違いしないで欲しいんだけど、体を許すとは言ってないからね。少なくとも、自分より強い男じゃないとあたしはお断りだぜ」


 少しばかり、伯爵令嬢から抜けた話し方でニヤリと笑みを浮かべるクレア。そんなクレアにアイリスとソフィが声を揃えてツッコミを入れた。


「「ユーキ(ユーキさん)の方が強いと思う(強くないですか)」」

「……それは、まぁ……別の話ということで」

「姉さん。まさか……ぐべっ!?」


 マリーが驚きと笑みの入り混じった顔で上半身を起こすと、その顔に枕が叩き込まれた。


「アホな妹は放っておいて、フェイもそこらにしておいたら、当事者であるあたしたちが誰も気にしていないんだし、それより問題はそこじゃないでしょ」


 クレアは立ち上がるとフェイの側へと歩み寄る。そのまま足元に倒れ伏したままのユーキを上から見下ろした。


「体……()()()()()()んだろう?」

「正確には右腕が、だけどな。特に指とかは最悪だ。付け加えておくと背中や肩もかなり痛い」

「そう。あたしは大丈夫だったけど、ユーキの場合は単純な損傷とは違って、架空神経の影響が出ているのかもね」


 クレアは腹を素手でぶち抜かれ、ユーキは右手の指が折れ曲がるほどのガンドを放った。どちらの怪我も身代わりの魔法でクロウが引き受けてくれたが、その後の症状はだいぶ違う。

 それをクレアはサクラも同様の症状があることから、架空神経の損傷は肉体の損傷とは別と予想した。


「サクラも昨日は魔力を使い過ぎたから同じ症状が出たって言うのにも納得がいく。何でアイリスが無事なのか疑問は残るけどね。まぁ、ユーキの方が症状が重いのは、それだけ無理をしたってことか。或いはクロウがわざと残していったか」

「架空神経は使った分だけ成長もしますからね。可能ならあまり手出しせずに放っておいた方がいいでしょう」


 ソフィもそれに同意した。そのまま、じっとユーキの腕を見つめ、ほうっと息を吐く。


「温泉の魔力を取り込み過ぎたのも、良くなかったかもしれませんね。体内の魔力(オド)が少なくなっていた分、体内で外側の魔力(マナ)の割合が増えすぎて、魔力酔いを起こしていた可能性もありますから。暫くは安静にして、魔力を回復させてください。食べて、寝る。それだけです」


 アイリス以上に見た目にそぐわない態度で、きっぱりと断言する。ソフィの回復魔法に頼れば大丈夫だろうと思っていたユーキにとって、治療を否定されたのは大誤算だった。

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