微睡みの中でⅢ
サクラの疑問にユーキは答えようか悩む。
メリッサのことをユーキ自身も良くわかってはいない。それを予想だけで話を進めるのもどうかと思う。本人のいない所で、これ以上言うのはやめた方がいいだろう。
「まぁ、色々な視点から見てもらうのは大切ってことだよ。案外、自分のことは自分が一番わかってなかったりするからさ」
ふっ、とどこからか流れ込んで来た風が火照った体を撫でていく。既に夜中、流石にこのまま話し続けるのも良くないかと思い始めていると、アンディを先頭に複数の騎士が通りかかった。
「おや、ユーキ君にサクラさん。まだお休みにはなられていなかったのですか」
「お疲れ様です。少しお風呂で温まり過ぎちゃったものですから、ここで涼んでいたんです」
サクラが会釈して答えると、アンディは疲れているだろうに爽やかな笑顔で忠告した。
「そうですか。でも、体は疲れているはずです。できるだけ早く戻った方がよろしいでしょう。明日は一日休めるとはいえ、疲労が抜け切れるとは言い切れませんから」
「そうですね。もう少ししたら戻ることにします」
「それがいいでしょう」
男湯へ入って行こうとするが、何を思いとどまったのか一瞬動きを止めた後、振り返って珍しく意地の悪そうな笑みを浮かべた。
ユーキとサクラ、周りの騎士も不思議そうな顔をしていると、アンディは口を開いた。
「こんな夜中に若い男女が一緒にいると、そういうことか、と勘繰られますよ」
「「なっ……!?」」
アンディに言われて、少しばかり焦る。
まだ自分がこちら側の世界の常識に疎い、ということをすっかり忘れていたが、傍から見るとそういう風に見られるとは思いつかなかった。
サクラが普通に話しているから大丈夫だろう、と思っていたが、周りから見るとかなり進んだ関係に見られるのだろう。他の騎士たちも疲れで、そこまで頭が回っていなかったのだろうが、アンディの言葉で気付いたらしくニヤリと笑みを浮かべた。
「まったく、こっちがしんどい思いで捜索や警護してるって言うのに彼女と逢瀬かよ。羨ましいぜ」
「良いんじゃねぇの? そうやって我々は繫栄していくんだ。未来は明るいってなぁ。それじゃあ、お二人とも。末永くっと!」
変なスイッチが入ったのか、騎士達も囃し立てると片手を上げて脱衣所へと消えていった。最後の一人がサムズアップして消えていったのを見送ってから、ユーキは恐る恐るサクラを見る。
視界の端で捉えていたが、途中から顔を俯かせ、自分の膝辺りを見つめていたのはわかっていた。そんな彼女の顔はのぼせたかのように真っ赤に染まり、プルプルと肩を震わせていた。
「あー、とりあえず今日は遅いし、もう寝ようか。アンディさんも言っていたように、疲れは早くとらないと」
「そ、そうだよね。早く、戻らないとね」
慌ててサクラは立ち上がる。それと同時にユーキも隣に並ぶように手で椅子を軽く押して立ち上がった。
――――ゆらっ。
途端に視界が歪む。
軽く目がチカチカするのを考えると貧血のような症状に近い。思わず、そのままの姿勢で硬直すると自分の服の袖をサクラが握って来ていた。
「ごめんなさい。ちょっと、立ち眩みが」
「奇遇だな。俺も今ちょっとクラッと来たんだ。一度、座り直そうか」
ゆっくりと椅子に手を当てて安全を確保した後、改めてサクラを両手で支えて座らせる。首から上が痺れたような感覚に襲われ、耳鳴りも数秒間続いた。
「大丈夫か?」
「うん。何とか治まったみたい。気にしないようにしていたけど、やっぱり色々あったから疲れてるのかも。体が動く内に移動しないと、このまま寝ちゃいそう」
「……ありがとう。俺の為に、みんな無理したみたいだし」
大妖精に攫われた自分を助けるために、ここにいる全ての人が動いてくれた。それだけでも感謝しきれないことだとユーキは実感している。
「みんなが助けたいって思えることをユーキさんもしてるから。だから、そんなに暗い顔しないで。さっ、行こう」
サクラが笑顔でユーキの裾を軽く引っ張って、再び、ゆっくりと立ち上がる。先程よりははるかにましではあるが、どこか頭がぼーっとしてしまい、四肢に力が入らなかった。
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