微睡みの中でⅡ
「私はユーキさんに和の国に来てほしい」
その言葉を聞いてユーキは正直なところ、嬉しさを感じたのと同じ分だけ、不安に襲われた。疑念と言い換えても良かったかもしれない。
サクラのことは信用できるし、短い期間ではあるが、今まで助け合ってきた仲間だ。疑うなどというのは少し礼を失するのではないか、と頭の片隅で考える。一方で、自分の性格上、気になってしまったことは明らかにしないと気が済まない。
その戸惑いは誰が見ても分かる程、表情に表れていた。目は泳ぎ、月明かりに照らされた庭園へと視線が向く。
「ダメ、かな……?」
「……ダメじゃない。ただ、こっちの国でやり残したこともたくさんある気がするんだ。魔法学園で調べられることだってあるし、魔法もまだ制御できていない。何かあった時に自分と仲間を守り切れるくらいの力をつけておかないと安心できないんだ」
少なくとも、和の国の裏切り者であるクロウには、自分も含め、この宿で休息を取っている何人もの仲間が救われた。最後の決着の引き金は自分自身であったが、それらも全てお膳立てされたようなものだ。クロウが本気で害を為したのであったならば、自分もサクラも生きてここにはいなかっただろう。
ユーキは自分の右手を握りしめる。魔力の籠った温泉に浸かったとはいえ、自分の放てる限界以上の魔力を無理矢理撃った反動がある。今はまだ痛みもないが、夜明けには酷く痛むだろうという確信があった。
この世界にはまだまだ危険な生物や現象、組織が至る所に跋扈している。油断すれば、それらに飲み込まれて呆気なく命を落とすだろう。
最初にこの世界でゴブリンに襲われた時のことを思い出しながら、ユーキは気を引き締めなければと言い聞かせる。ファンタジーの世界ではファンタジーの世界にしかない危険がある。元いた世界の日本とはレベルが違うのだ。
「ユーキさん。一応、言っておくけど、和の国に行くまでの道は安全だからね? ……多分」
「いや、わかんないぞ。また、どこかの誰かに誘拐されたり襲われたりするかもしれないからさ。あと、多分って、付け加えられると凄い不安になるんだけど……」
よくわからない老人が仕切る薬物中毒不死軍団やら、いつ復活するかわからない魔王とその配下、クロウの所属する謎の組織など、ただでさえヤバそうな気配が音もなく忍び寄っているのだ。ドラゴンの存在や他国の侵略すらも、そんなこともあったなぁ程度に並べられる時点で、既に感覚が麻痺している。
「そ、そうかもしれないね。確かにちょっと怖いかも。もし、こうなるってわかってたら、絶対に私のお父さんは留学を許可しなかっただろうし」
どこの世界でも父親は娘を溺愛する生き物なのだろう。
会ったことはないが、サクラの話しぶりからするといい父親であるという印象を受けた。
「それじゃあ、ユーキさんは王都に戻ったら特訓しないとね。でも優先順位をつけないと、中途半端になっちゃう。何から頑張るの?」
「そうだなぁ」
剣術は和の国に行った時に学ぶことができればいいだろうと考えると、選択肢としては魔法であることは間違いない。そうなると、どの系統の魔法を練習するかが大切になるだろう。
「真っ先に浮かぶのは身体強化、攻撃魔法、防御魔法の三択だよな。どうしよう」
「もし迷うようなら、魔法学園の先生たちに聞いてみると良いんじゃないかな? それか、アイリスちゃんとか知識がいっぱいあるから、いい答えが聞けるかも」
「いや、この場合はアイリスだけじゃなくて、メリッサさんやアンディさんとかの方がいいかもしれないな」
「アンディさんはわかるけど、メリッサさんも?」
年は若いがマリーのメイドとして以上に、護衛の役割が強すぎる。クロウの再生能力という手段に攻撃を無効化されたが、戦闘面だけで考えれば相当な実力者であるのは明白だった。魔法と格闘、その両面から自分の戦闘スタイルを考えて、長所を伸ばすのか短所を克服するのかを考えるのは悪い手ではないはずだ。
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