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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第9巻 絡繰る先は女郎花

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微睡みの中でⅠ

 眠い、と訴える脳の電気信号もより強い電気信号の前には、掻き消されて上書きされてしまうのは当然と言えるだろう。

 朝の六時。既に陽は登り、小鳥が囀って飛び回っていた。床に入ったのが丑三つ時を過ぎる前だったとはいえ、睡眠時間が四時間というのはどうにも不健康だ。大学時代や一、二年目の社会人なら気合で乗り切ることもできたのだろうが、戦闘で疲れ切った体は言うことを聞かない。心なしか、体全体がだるく、ズキズキと痛むような気さえしている。

 変な体勢で寝ていたせいか二の腕当たりから痺れを感じて、もそりと寝返りを打とうとした。しかし、体は思うように動かず、初めてそこで二の腕に感じる重みが自分の体ではないことに気が付いた。

 寝ぼけた頭脳では、何やら固く、僅かに熱をもった物体があるということしか理解できていない。自由に動く左手で目を擦りながら視界を徐々に受け入れていくと、そこにはまだ布団がいくつか並べられ、誰もまだ起きていないことが分かった。


「……まだ大丈夫か」


 魔法や魔物が存在する異世界に来訪した存在であるウチモリ・ユーキは、気怠さを感じながら、昨晩、言われたことを思い出す。

 集団の隊長を務める騎士アンディに言い渡されたのは、八時には朝食を食べるために起きてくること。逆に言えば、それまではゆっくり寝ていても良いということだった。他の騎士の人はもっと厳しい睡眠時間だと思うと申し訳なさがこみ上げてくるが、今は睡眠欲に促されるまま布団に体を預ける幸せに浸る。

 そんな中でユーキは問題の自分の右腕に視線を向けた。隙間から白い光が指しているとはいえ、寝起きの視界では、覚えろげなシルエットと色くらいしか判別できない。

 そんな中で自分の浴衣がズレるのを感じた。


 ――――おかしい。今、自分は動いていなかったはず。


 そんな考えが浮かんでくると、やがてその部位の感覚も目を覚ましたかのように遅れて脳へと感じていた重さを送信する。


「なん、だ?」


 重い首を重力に逆らって浮かせ、反転させる。その視界に飛び込んで来たのは黒いシルエットだった。

 よくよく見ると、その形状は球体に近いが所々から何かが飛び出ている。まるで植物が生えているようだと考えたところで、それが()()()であると気が付いた。

 脳の処理が追い付かず、フリーズする。外から聞こえる小鳥の鳴き声だけが、時間が止まっていないことの証左であったが、それを認識できるほどの余裕はない。


「ちょ、えっ? 何故!?」


 思わず出してしまった声が予想外に大きく、ユーキは慌てて口を塞いで周りを見る。自分が今、置かれている状況を把握して、心臓が跳ね上がり、脳が覚醒する。

 自分が本来泊まる部屋に、ここまでの布団の数はない。どう足掻いても覆らない事実にユーキは頭が痛くなった。


「女子、部屋ッ――――!」


 辺境伯の娘であるクレアとマリー。魔法学園の飛び級少女のアイリスに、学園長の孫娘であるソフィ。吸血鬼の真祖であるフラン。そして、自身と同じ国の出自を感じさせるサクラ。川の字になった布団を二列、部屋に並べた形でユーキは最も入口に近い布団にいた。恐らく、部屋を間違えて、そのまま寝転んだのだろう。

 そう考えたところで、自分の右側にいるサクラの存在で一つの疑念が浮かぶ。

 眠気で意識がなかったかと言われれば、それは否である。布団に寝る前の詳細な記憶を掘り起こそうとしていると、ユーキの右腕にかかっていた重さに変化が生じた。

 横向きで寝ているサクラが身動ぎをする。そして、そのまま頭部はユーキの胸側へと寄ってくる。右腕は腹に回され、左手は微妙にくすぐったさを感じる程度に脇腹へと添えられている。

 再起動したはずの脳が何故か、再び闇の中へと落ちていくような錯覚に陥った。


「(本来なら、逃げ出す一択のみ。だけど、サクラが近くにいて逃げ出せない――――)」


 頭の片隅で冷静に逃げ出す方法を考えようとしていたが、どういうわけか今日はその冷静さが空回りをしてしまう。


「(――――どうせ逃げられないから、このままもう少し堪能しよう)」


 早々に脱出を諦めて、何故こんな状況に身を置いてしまったのかを微睡む意識の中で考える。確か、始まりは夜中の風呂上りに、サクラと和の国に一緒に行こうという話をしたところからだ。

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