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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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束の間の休息Ⅶ

 水が滴る音が大きな部屋に響く。


「あら、もう戻ったのですか?」

「はい」

「それで、例の子はどうだった?」


 跪くクロウに女性は語り掛ける。

 その手には杯が握られ、酒を嗜むようにグルグルと中の液体を動かしていた。


「もちろん、無事でした。尤も、後少しで敵の手に渡るところでしたが」

「それは良かった。あの老人の下に連れ去られていたら、どんなことになっていたか。考えるだけでも恐ろしい」

「寄生体ごと吹き飛ばしたので、当分は動けないかと。動くのならば今の内ですが?」

「――――辞めておきましょう。守りが弱まっている今、動けば相手に逆転の一手を打たれる可能性があります。今はまだ堪える時です」


 杯を傾けると数滴、液体が零れ落ちる。それを足元にいた蛇が大きく口を開けて飲み込んだ。それで満足したのか。チロチロと舌を出し入れすると、体をくねらせて部屋の隅へと這っていく。それを女性は見ることなくクロウへと視線を投げかけていた。


「それと、()()()()()()()?」

「問題ありません。無事に()()()()()しています」

「そうですか。そちらはあまり気付かれていないようですね。しかし、よく首輪の起動に必要な魔力源を用意できましたね。それもあなた抜きで」

「あいつなら、それくらい、やってのける力はありますから」


 クロウは立ち上がると軽く両手を広げる。


「むしろ、それぐらいできなきゃオカシイ。アレは普通の人間だと思い込んているだけで、その中身は常軌を逸してますからね」

「そう。あなたとどちらが上かしら」

「おかしなことを聞かないでください。()()()()()()()ですよ」


 そう言うとクロウはローブを翻して、後ろにある道へと歩いていく。

 部屋にコツコツと虚しく足音が響き、時折、何かが羽ばたく音が聞こえた。黒い影が視界の端に映った気がするが、それをクロウは気にせずに歩いていく。その背中に向かって女性はぼそりと呟いた。


「……随分とおしゃべりになりましたね」

「俺は元来おしゃべりですよ」

「あら、聞こえてたんですか。気にしてたのなら、ごめんなさい」

「いえ、構いません。それでは少し休息を戴きます」


 その姿が道の先へと進み、姿が見えなくなったところで女性はもう一度呟いた。


「ほんと、面白い子」


 暗闇からはもうクロウの声は帰って来なかった。

 トンネルのような廊下は魔法石が等距離に置かれ、篝火代わりに道を照らすことができるが、クロウはそれを使わずに進んで行く。

 そんな最中、暗闇からクロウに語り掛ける存在がいた。


「なるほど、あれが君の主か。こうしてはっきりと知覚すると、なかなかに恐ろしいな」

「……勝手に話し始めないでくれ。俺の心臓に悪い」


 一瞬、間があった後、クロウは返事を返した。その相手はエルフの男、マリーたちを妖精庭園に導いたチャドの声だった。


「いや、何。本当に思ったことを口にしたまでだ。気を悪くしたか?」

「別に。それよりも、あくまであんたは仮の契約で来てもらっただけだ。その内、元の所に帰ることになるが、問題はあるか?」

「私はここに存在できただけでも奇跡みたいなものだと思っている。感謝こそすれ、恨むようなことはないから安心してくれ」

「わかった。今回は協力に感謝する」


 短く言葉を交わしていると、耳に何かが羽ばたく音が届く。それが蝙蝠の羽音だとは普通の人間にはわかるまい。わかる前に聞くことができるかどうかすら怪しいだろう。

 暗闇の中でクロウはため息をつきながら、その音がする方向へと問いかける。


「あんたも、俺に何か聞きたいことがあるのか?」

「――――――――」


 その言葉に対する返事は只の甲高い鳴き声だった。しばらく、クロウはその場に立ち尽くしていたが、それ以上の言葉がないと悟ると、元々の進行方向へと足を進める。

 話しかけることはないが、その動向は気になるようで蝙蝠はその後を飛んでついて行く。それを気にせずクロウは、暗闇に溶け込むかのような声で呟いた。


「まぁ、俺のやるべきことは一つだ。精々、足手纏いになるなよ、勇輝」

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