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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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束の間の休息Ⅰ

 馬車に揺られてホットスプリングスの宿へと辿り着き、あれこれと仕事を済ませる頃には、月も中天を通り過ぎていた。妖精庭園を抜けた頃には既に陽が沈み始めていたが、本来ならばここまで遅くなることはない。問題だったのはソフィの存在だ。

 伯爵の恩師であるルーカスの孫娘を保護することになった挙句、その存在は相当厄介な化け物が狙ってくるとわかっている。すぐに第二陣が派遣されたり、襲ってきたりするなどということはないという情報がメリッサから告げられていたが、警備の見直しをしなくていい理由にはならない。

 アンディは万全とは言えないものの即座に警備を強化し、サクラたちを休ませることにした。一方で、戦力となるユーキとフェイはその警備シフトに組み込まれている。

 ユーキたちはアンディと行動し、いつでも戦闘に参加できるように気を張っていたせいか、眠気で頭痛や全身の気怠さが襲ってくる。流石に妖精庭園で戦闘をした後ということもあって、控えていた部隊よりは早く解放されることになった。


「悪いけど僕は魔法で清めて寝ることにするよ。君は?」

「俺もそうしたいところだけど、温泉なんてめったに入れないし、入ってから寝るよ」

「そうかい。じゃあ、明日の朝にまた会おう。馬車の操縦を誤るわけにはいかないからね」


 手を挙げる気力もないのか。肘のあたりまで手を挙げかけて、ぱたりと下ろしてフェイは部屋の奥へと消えていった。ユーキも一瞬だけ、同じようにして眠りたいという欲求に駆られたが、宣言通りに温泉へと足を運ぶことにする。

 脳裏にサクラたちを部屋の布団に横たえた後のソフィたちとの会話が思い浮かぶ。






「温泉、旅館か……。この国にはないと思ってたよ」

「まぁ、このような建築様式は和の国か、近いものだと蓮華帝国ですね。ここの経営者も和の国の出身で、この村にも同じように和の国のものを取り入れて商売している方が、何人かいらっしゃるみたいですよ」


 フランが荷物を降ろしながら、北の方を指差して説明する。


「山に住むドラゴンが吐いた炎で暖められた水が湧いている、なんていう人もいますが、そんな目の前にドラゴンがいたら王都から討伐隊が派遣されますよね」

「ま、まぁ、そうだよね」


 まさかフラン自身を助けることにつながったルビーがドラゴンの吐く炎によってできたもので、そのドラゴンがここより更に王都に近い洞窟の中で今も眠っているとは思わないだろう。

 ふと、出会った年老いたドラゴンの恐ろしさを思い出して、ユーキは引き攣った笑顔を浮かべる。ドラゴンには、その存在を秘匿する約束をしているので、間違ってもここでフランに話してしまって誰かに聞かれれば、何が起こるかわからない。

 下手をすれば、怒ったドラゴンが王都を焼き尽くしたり、ユーキを殺しにきたりするなんてことすら考えられる。いや、本気で怒っているなら、間違いなくあのドラゴンはするだろうという嫌な予感があった。


「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない。普段は魔法で体の汚れとかを何とかしてるから、お湯にゆっくり浸かりたいなって」

「あちらの国の方々はお風呂に入るのが好きですものね。私は種族的にこういうこと言ったらだめなんでしょうけど、マリーさんの家のお風呂を使ってからは、お風呂のすばらしさに気付かされました。サクラさんたちが目を覚ましたら、一緒に入りたいなぁ……」


 流石に今夜は無理だろうとフランは肩を落とす横でソフィが呟いた。


「ここの温泉……魔力を結構含んでいます。体の疲れも取れやすいかもしれません。特に魔力を膨大に使ったユーキさんは」


 聞く限りとてもいい情報を教えてもらっているのだが、その目は何やら怒っているようにも見える。どこかサクラが時々見せる視線と同じものを感じて、思わずユーキは一歩後ずさった。


「な、何か問題でも?」


 その言葉にソフィは大きくため息をついた。

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