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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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蛇の道は蛇Ⅱ

 自分で体を支えようとする二人であったが、大分無理して魔力を放出したせいか。腕や足が微かに震えていた。


「あまり無理をしない方がいいですよ。あまり気にしていないようですが、ここは私たち妖精の住む場所。大気中に溢れる魔力(マナ)は上手く馴染めない状態では毒にも等しいですから」

「そうなんですか……?」

「はい、以前に迷い込んだ方は余程相性が悪かったのか。魔法を使ってすらいないのに気絶してしまいましたから。少しでも気付くのが遅れてたらどうなっていたか」


 ティターニアがソフィへと振り返る。


「その点、同じ魔力を操るというのにも関わらず、精霊というのは人間の方にも負担をかけずに魔力を注ぐことができるのですね」

「それもそうかもしれませんが、私の場合は治癒に長けた水魔法だからだと思いますよ」


 ソフィはユーキへと翳していた腕を下ろす。

 腕に纏わりついていた薄い水の膜が弾け飛び、服を濡らすことなく空気中へと消えていった。驚きながらも手を何度か握りしめて調子を確かめる。

 痛みや麻痺はなく、普段通りに動いた。魔力を流してみても問題なし。むしろ、今までよりも遥かに魔力の通りが良くなっていて驚くほどだ。


「さっきの攻撃でかなり架空神経が鍛えられたようですね。本来ならば、何か月もかけて強化していくのですが……私とあの人がいなかったら、腕が吹き飛ぶなんてレベルじゃ済まなかったかもしれませんよ?」

「……だよなぁ」


 筋肉だってダメージを修復するときに以前より強く作り直される。それは魔力を通す架空神経も似たような物なのだろう。そう考えれば、いきなり負荷をかけすぎて腱や筋肉が千切れるのと同じように架空神経やそれを包む肉体が損傷しても不思議ではない。

 クロウの服の下で起こっていただろうグロテスクな惨状を想像するとぞっとする。


「いや、俺は良いんだ。とりあえず、二人は大丈夫なんだよな?――――大丈夫そうには見えないけど」

「はい。もちろん、この庭園の外に行かれた方が回復は早いかと思いますが」

「わ、私は、大丈夫……」


 サクラはアイリスよりも先に回復しているようだが、どうにもまだふらふらしているようだ。変なところで頑固だと思いながら、ユーキはサクラの下へと歩み寄る。


「ありがとう。でも、もう危険はないみたいだから、そんなに急いで立ち上がらなくてもいいよ」

「ユーキの言う通りだ。今はゆっくり休もう」


 フェイも頷きながらティターニアへと視線を送る。その意味に気付いてティターニアは頷いた。


「ここから出て行かれる、ということでいいですね」

「そうですね。問題は彼女……ソフィ様を連れて行ってもいいかということなんですが」

「私に決定権はないですね。仮に拒否したとしても、止められないと思いますから。彼女も――――あなたも」


 その視線はソフィの次にユーキの方へと注がれていた。


「俺……?」

「えぇ、あなたの魔法は人の身にはあまりにも過ぎる力を持っています。先程まで、ずっと考えていましたがようやく、あなたの失っていたものが何かを理解できたような気がします」

「それは、一体……?」


 思い当たるものがないユーキからしてみれば、自分の何かが勝手に消えていくのは恐怖以外の何物でもない。サクラの側で屈んだまま、体が固まってしまう。

 そんなユーキをまっすぐに見据えながら、ティターニアは音もなくすっと歩み寄るとユーキを抱きしめた。


「え……、ちょっと、ティターニアさん!?」


 片方の手は背中に、もう片方は後頭部を擦るように動く。何かわからないが鼻腔を花の香りがくすぐった。

 気付くと自分の足元に小さな花がたくさん咲き始めていた。背の低いピンク色の花が風に揺られて手を振っているように見える。


「……大丈夫。あなたから失われたものはあっても、それを注いだ人の想いは決してなくなりません。だから、あなたが恐れることは何もないのです」


 そう呟くとティターニアはユーキからそっと離れた。

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