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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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代用Ⅵ

 巨大な肉塊の目の前で、土の人形が空へと舞い上がる。それを合図に肉塊が一歩大きく踏み込んだ。

 固定砲台となっているユーキには、右腕の攻撃射程に入られれば逃げることはできない。だからと言って、遠くから放てば避けられる可能性もある。やっとのことで作り上げたガンドをもう一発作り上げることは不可能だ。


「ここで、決めないとな……!」


 ユーキの視線が周りの仲間へと向けられる。

 サクラ、アイリスは魔力切れで立ち上がれず、マリーもまた限界が近い。フランは魔力に余裕があるが、唯一使える火の魔法は、着弾後の爆炎で照準が狂うため今は動けない。

 ソフィも今はユーキの腕に治療を施すので精一杯だ。正確には水の魔法を放つこともできなくはないが、魔力の無駄である。それならば、ユーキの腕の治療に全力を注いだ方がいい。

 アンディやフェイ、メリッサは前にこそ出てくれているが、足止めは不可能だ。


「三人とも、どいてくれっ!」


 故にユーキは自らを最前線にすることにした。万が一、妖精たちが肉塊を打ち上げることができなかった時は、ユーキだけで対処しなくてはならない。

 その場合に狙うはただ一つ。敵が最も接近した瞬間、そして、自らが最も危険になる瞬間のカウンター。


「(どちらにせよ、こいつを使っておかないと話にならないよな)」


 妖精たちが打ち上げるタイミングであっても、肉塊が突進してくるタイミングであっても、肉眼で捉えるのは至難の業。故にユーキは魔眼で肉塊を凝視する。

 途端に頭をハンマーで殴られたような痛みと吐き気が襲ってきた。やはり、肉塊が放つ赤黒い光というのは、常人には耐えられない何かがあると感じてしまう。感じてしまうが、本能がそれ以上先を理解してはいけないと、警鐘を痛みに替えて発しているのだろう。

 何とか理性で目の前の光がどのように動くのかだけに集中する。そうしている内に、赤黒い光が一気に自分に向かって近づいてくるのが目に見えた。


「(早いっ!?)」


 全身が緊張した瞬間、自分を後ろから緑色の光が追い抜いていく。ユーキと肉塊の間に緑色の絨毯が敷き詰められているようだった。魔眼でさえ捉えるのが難しいのにも拘わらず、その絨毯はある一点に収束していく。

 コンマ三秒にも満たない時間で行われた光の収束の目標地点は、動き出した肉塊が踏み出した四歩目と五歩目の真下であった。

 それを踏み抜いた瞬間、顔を庇いたくなるような突風が吹き抜けた。台風の風速が赤子にでも思えるような衝撃に顔が歪み、草花が千切れ飛ぶ。

 瞼を一瞬閉じてしまったユーキ。すぐに肉塊の行方を探そうと目を開けるより先に、その腕が持ち上げられた。


「――――外すなよ」

「――――わかってる」


 クロウがユーキの右腕を肉塊へと照準を合わせていた。

 ユーキが肉塊の存在を見つけ出したことを確認すると、クロウは仰向けに倒れ込んだ。もう彼にできることはない。ここから先はユーキの役目だ。

 宙を舞う肉塊は四肢――――いや、三肢をばたつかせているが、足場のない空中では無意味に等しい。


「よく、あのスピードに合わせられましたね」

「草花は地面の中に根をしっかりと巡らせていますから、見るよりも先に体が感じてしまう、といったところでしょう。ただ、あの子たち、騙されたことに相当怒っているんでしょうね。あんなに高く打ち上げるなんて」

「騙された?」

「いえ、こちらの話です。気にしないでください」


 クロウを除けば、ハシシが言った言葉を知っているのはティターニアだけ、今は話すべき時ではないだろうと首を振る。

 打ち上げられた肉塊は、スピードを落とし、その頂点に達しようとしていた。その高さは概算で十五メートル。三階建ての校舎の屋上に近い。普通の人間ならば落ちたら即死の高さも、あの化け物にとっては無意味に等しい。

 しかし、そんな無意味な高さも、今、この瞬間だけはユーキにとって最高のチャンスであった。

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