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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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再戦Ⅸ

 自身を闘牛士の布に見立てるかの如く、肉塊の前で揺れていた紙はひらりと拳を交わして、元通りの配置へとつく。


「あれは……?」

「式神擬き。私にはお父さんみたく式神を上手く作る力が無いけど、こうやって相手を誘導するくらいならできるから。ユーキさんは今の内に回復して」

「私もお手伝いしますね」


 ソフィが手をかざすとユーキの右腕を冷たい水が包み込む。

 単純に魔力の流し過ぎで熱を持っていたのもあるが、この水はウンディーネの得意としていた回復魔法の一種だ。架空神経の酷使で生じた微細な――――けれども、一時的に魔力が使えなくなるほどの――――損傷を修復していく。


「すごいですね。前に見た時よりも、架空神経が発達しています。それだけじゃない、神経自体の量が増えてる!?」

「そんな、驚くことか?」

「当たり前です。神経自体が太く成長することはあっても、急激に増えるなんてことはあり得ません」

「魔法を使い始めて日が浅いからな。もしかしたら、わからないほど細かった神経が太くなっただけじゃないのか?」


 さほど気にせずにユーキは右手を何度か握ったり、開いたりを繰り返した。痺れもとれ、粘性の高い液体がどろりと腕の中を動き始める感触に、神経が回復したのだと気付く。

 その間もサクラの放った式神擬きは肉塊の攻撃を避け続けていた。


「暖簾に腕押し、とはまさにこのことだな。流石にあいつでも紙をパンチで何とかするのは、至難の業だろう」

「油断するなよ。頭のないアレがどうやって周りを認識しているかわからないけど、こっちに目標を切り替えたら終わりだからな」


 フェイが生唾を呑み込みながら一歩後ずさる。

 サクラの式神はただ周りを飛ぶだけでなく、認識を阻害する魔法も同時にかけていた。正確に言うならば、自分の髪を触媒にして、式神擬きがすべてサクラ自身と感じるように設定されている。

 術式を一歩間違えれば丑の刻参りの人形のように、本来は紙へのダメージがそのままサクラへと転送されるところなのだが、それをサクラは回避した状態で発動させていた。


「くっ……!」


 それでも四つ同時に操るのは難易度が高いらしく、動かしていた式神擬きの紙が一枚、開かれた拳の中に吸い込まれていき、ぐしゃぐしゃに握りつぶされてしまう。


「サクラさん、後少し頑張ってください。ユーキさんの腕ももう少しで使えるようになりますから」


 ソフィが励ます間にも式神擬きがまた一枚、肉塊に捕まっていく。

 何とかしようとマリーたちは土魔法による拘束を試みるが、脚を捕まえても次の瞬間には、それごと地面を砕かれたり、引っこ抜かれたりして、妨害にすらなっていなかった。


「やばいな。ユーキ、まだいけそうにないのか?」

「――――まだ、だ」


 気色悪い感触がまだ腕の中で移動している。それも無理矢理淀んだ塊を移動させているのか、腕が時折痙攣を起こす。左手で指の外へ追いやるように擦っていくと、何とか痛みや麻痺が消えていった。


「ダメ、だな。その状態では先程の威力を出すのは難しいだろう」

「少なくとも、今のお前よりは役に立つぞ」

「抜かせ。架空神経の限界も認識できずに魔法を使うからこうなる。これで戦えるというならやってみろ」


 いつの間にかアンディに肩を貸され、歩み寄ってきてクロウはユーキへと苦言を呈する。

 クロウに言われて、魔眼で腕を見つめるとそれはもう酷いものになっていた。撃った指先はもちろん、そこから手の甲、手首に至るまで真っ赤なひび割れが起こっていた。手首から上は服でわからないが、何が起こっているかを予想するには簡単だった。

 歯を食いしばってどうするべきかを考えていると、サクラの口から苦悶の呻きが聞こえる。いつの間にか肉塊の周りをとんでいる紙は一枚だけとなっていた。最後の式神擬きを何とかして動かしているが、ここで魔力が付きかけているのだろう。

 その動きは時折、電源が切れたかのように重力へと引かれていく。その不規則すぎる動きが逆に肉塊を混乱させているようだったが、ふとその体の向きがユーキたちの方へと向いた。


「幻覚の魔法が、切れた……!」


 アイリスの言葉通り、肉塊の歩みは既にこちらへと向いている。

 それに対してまだ何の準備もできていないユーキ。万事休すと思われたその時、クロウの手がユーキの背中に触れた。


「あまり、良い手段ではないが、一つ提案がある」

「……何だ?」

「こっちを使ってみろ」


 そう言うや否や、ユーキの背中から膨大な魔力が押し込まれた。

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