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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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再戦Ⅷ

「愉快よな。まだ、儂に逆らえるつもりでおるか」

「逆らわなくても、結末は、同じ」


 アイリスがぼそりと反論する。それを聞いてマリーとフランが続いた。


「少なくとも、生き延びることはできる」

「そんなのは、あなたの機嫌次第、信用できない」


 それが老人には心底面白く感じたようで、口を大きく開けてケタケタと笑う。


「ならば、その下らぬ意地で死ぬがよい。小娘ども」


 今度は残った右腕が激しく動くと、急に太さが倍に膨れ上がった。それだけではない、残った部分が軒並み大きくなり、より筋肉質に変化しているのだ。


「まだ強くなるんですか!? 逃げましょう!」

「逃げたところで追いつかれる。何とかしないと!」


 逃亡するべきか、立ち向かうべきかで意見が割れる。

 そんな中、アンディの声が響いた。


「みなさんは逃げてください。私が時間を稼ぎます。ティターニア殿、申し訳ないが、彼女たちを逃がしてもらえませんか?」

「アンディ、何言ってるんだよ!」


 マリーが声を挙げるが、それをアンディは遮って吠える。


「我々の役目は、あなたをお守りすること。伯爵の娘であるあなたは生き延びなければならない義務があります。メリッサ、フェイ、早く行きなさい! 行け!!」


 持っていたハシシの首を投げ捨て、アンディは剣を構えた。

 既に老人の顔は腹の部分から消え失せていたが、耳に嘲笑うかのような幻聴が聞こえる。


「……やめておけ。あんたじゃ、殺されるのがオチだ」

「無事だったのか?」

「無事? この出血を無事と言えるなら、その目は交換してもらった方がいいだろうな」


 アンディの背後からクロウの声が響く。

 既に体中血まみれで、足元もおぼつかない様子だ。引きずるようにしてアンディの横に並び、ハシシだったものを見つめる。

 ただの筋肉の塊になった化け物の姿に、首を振った。


「まさか糞爺が出てくるとはな。あれを止めるとなると、再生不能になるまで――――それこそ灰になるまで焼き尽くすぐらいの火力がないと厳しいぞ。いや――――」


 そこまで口にしたクロウは、唐突にユーキへと顔を向ける。


「――――あいつのガンドなら行けるか?」

「ユーキ君の、ですか?」

「あぁ、ガンドで吹き飛んだところが再生していない。上手く行けば消滅させることも可能かもな」


 ――――ズンッ!


 体の変形を終えた肉塊が一歩を踏み出した。大地を揺らし、草花の根がむき出しになる。

 今まで通りの素早い動きなのか、それともそれを犠牲にしての肉体なのか。見た目だけでなく、能力がわからない点も、より一層恐怖を掻き立ててくる。


「無理言うなって、こちとら魔力が集まらないって言うのに……」

「ちっ、肝心な時に役立たずが」

「お互い様じゃねえかっ!」


 力の入らぬ声で互いに詰るが、状況は改善するわけもなく。すぐに目の前の現実に思考を引き戻される。


「(身体強化はいけるけど、ガンドはまだ無理。せめて、後一分くらい経てば……)」


 正座の後の痺れた感覚に近く、触ったり動かそうとするだけでビリビリと腕や手が悲鳴を上げる。その感覚も少しずつ回復してきており、時間さえ経てば撃てるという確信があった。


「……ユーキさん。時間が稼げれば、何とかなりそう?」

「時間があれば、な。確実じゃないけど、ガンドは撃てそうだ」


 その言葉を聞いたサクラは、意を決すると懐から何枚かの紙を抜き出した。掌より少し大きい、それは人の形を象っているように見える。


「この前の戦いには間に合わなかったけど、少しだけなら……!」


 手から放たれたそれは肉塊の前にまで矢のように飛んでいくと、四方一メートルの距離で取り囲み、肉塊へと向き直る。

 そのまま揺ら揺らと左右に動くと、肉塊が急に反応して大きく振りかぶった腕を振り抜いた。

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