再会Ⅴ
ユーキは樹の傍らに立つクロウを見ながら、近くを走るサクラとフェイに目を向ける。
「フェイ、サクラ。マリーの無くした大切なものって何かわかるか?」
「いや、多分、それは僕が伯爵家に仕え始めたかどうかくらいの時期だから、その話はあまり聞いたことないな」
「私も、こっちに来てからのマリーしか知らないから、何とも言えない。でも、あの様子だと本当に忘れてたみたい」
「――――或いはビクトリアさんの魔法で強制的に忘れさせた、とか?」
ユーキの言葉にフェイがハッとする。それは予想していなかった、というようにも取れたし、母親であるビクトリアがそんなことするはずがない、という否定にも取れた。
「色々と歪んでいるかもしれないけど、そういう可能性だってあるだろ? あくまで可能性の話だ」
ユーキは言ってみただけだ、とフェイに言ったが、心のどこかで確信めいたものを感じていた。本当に自分の子供が何かを失って悲しみ、ずっと部屋に引きこもってしまったら、そういう手段を取ることは十分に考えられる。特に、マリーの母は元とはいえ宮廷に仕えた大魔法使い。
先日は攻撃魔法で驚かされたが、魔力のコントロール方法など繊細な技術も持ち合わせていた。それならば、そう言った魔法の一つや二つ、習得していてもおかしくはないだろう。
警戒するべきなのはクロウか、それともクロウがこれから見せようとする失われたものか。一抹の不安が過ぎる中、目の前の大きな根を跳び越えて大樹へと近づいていく。
陽の光が遮られた影の中に入ると、クロウの手が触れている幹が青く光っているのがわかった。
「あれは……?」
ユーキは魔眼を解くと、それが樹の洞から漏れ出ている光だと認識できた。クロウの身長や手の大きさからすると二メートルに届かないくらいの高さだろう。
「ティターニアさん。あそこには、何があるんですか?」
恐る恐るついて来ていたティターニアに問うと、言い辛そうに話し始めた。
「あそこには……私がいます。そして、もう一人」
「保護した少女、ですね」
ユーキが待ちきれずに告げるとティターニアは頷いた。
そうだとするならば、クロウが今まさにマリーに見せようとしているのは、その少女自身に他ならない。
そして、そのクロウの下にマリーは辿り着く。数秒遅れて、ユーキたちも同じ場所へと辿り着いた。
「さぁ、一体このマリー様に何を見せてくれるって言うんだ?」
「――――では、見せるとしよう。そして、マリー。君に問おう。この顔に、見覚えはないか?」
そう告げたクロウが手を退けると、そこには樹の虚に嵌め込まれるように青い結晶体が存在していた。淡い光を放ち、脈打つように光が明滅しているようにも見える。
軽くその結晶の壁をクロウが小突くと固体であるにも拘わらず、波紋の様に揺れたそれは、急に色を失っていった。
「なん、だ?」
目を凝らすが中身はまだ見えてこない。だが、次第に黒い影が浮かび上がる。そのシルエットはどうやら幼い少女のようで、膝下まであるフリルのついたスカートが特徴的なシルエットだった。身長はアイリスと同じか、それよりも低く見える。
もう一度、クロウが叩いて波紋を揺らすと、急速に結晶のシルエットに色が付き始めた。否、透明感が増していっている。
「その子、は……」
「問おう。この少女に見覚えはないか?」
銀髪を揺らし、何かを抱きしめる様にして胸の前で手を交差させた少女。白く透きとおた肌は、一歩間違えれば、死人と誤認しかねないほどだった。
だが、アンディとメリッサを除く全員がそれよりも少女の顔に目を奪われていた。
「(――――ウンディーネがなぜここに!?)」
フェイと話をしていた行方不明のウンディーネが、その中に閉じ込められていた。
しかし、落ち着いてみると何かがおかしい。服装はウンディーネがしているものとはかけ離れているし、体格も一回り小さい。
その違和感に誰もが言葉を詰まらせる中、マリーだけが短く呟いた。
「――――ソフィ?」
それを聞いて、メリッサはアンディに目配せした。アンディはそれを受けて首を振る。
目の前で各々が様々な反応をする中、クロウはマリーだけを見つめて言い放った。
「そうだ。お前の幼い頃の友人で、とある事件に巻き込まれ死ぬはずだった娘だ」
クロウは一度区切って、ティターニアへと視線を変えた。
「この娘の名前は、ソフィ。ソフィ・フォーサイス。魔法学園長ルーカス・フォーサイスの孫娘だ」
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