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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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再会Ⅱ

「名乗るのが遅れました。ローレンス伯爵家メイド長を務めるメリッサでございます」

「メイド長、ね。掃除長の方が似合っているんじゃないか?」

「もちろん、掃除もこなしますが、それだけではメイドは務まりませんから」

「はっ、恐ろしいことだ。これから貴族の屋敷に入る時には気を付けるとしよう」


 お互い軽口を叩いているようにしか見えないが、二人の間で見えない火花が散っていた。

 いや、ユーキだけにはそれが見えていた。


「(嘘だろ!? マナに侵食されずに、オドがぶつかり合ってる……!)」


 クロウは相変わらず虚ろに見えるが、薄い緑の光が靄の様に漂っていた。対して、メリッサからは金糸雀色の光が探知波の様に揺らめいている。

 二人の間でそれがぶつかり合うと、接触の悪い電球の様に何度も白い発光現象が起こった。


「主の希望だ。教えてやったらどうなんだ?」

「主が悲しむならば、それを止めるのは従者の役目。部外者は口出しを控えてくださるようお願いいたします」


 両手を体の前で重ねて、深々とお辞儀をする。

 それに対して、クロウは視線をマリーの方へと向けた。






「――――ということだ、そうだ。どうする? マリー・ド・ローレンス」

「あたしは――――」


 頭を下げたままのメリッサとクロウの間を視線が行ったり来たりする。

 自分が失ってしまった何か。忘れてしまった何か。それを知りたいと思う気持ちはある。だが、同時にそれを知ってしまったら、取り返しのつかないことになるのではないかという予感があった。

 事実、そうでなければメリッサが強硬手段まで使ってクロウの言葉を遮り、マリーの知りたいという権利を排除するはずがないからだ。信頼できる相手だからこそ、余計に悩み、口を噤むしかなくなってしまう。

 そんな中で視界に入ってきたのはフランやティターニア。フランは父親を攫われた身で、ティターニアは一応保護という名目で隠していた少女を連れて行かれようとしている。そのことを考えると、自分の知りたいという一言で、この先のことがわかるのならばいい選択なのではないか。

 僅かな時間ではあったが、マリーは自分の中で決断を下した。





「それでも、あたしは知りたい。それなら、少女が誰なのかくらいは教えてくれるんだよな」

「ふむ、意見が割れてしまったな。この場合、どうすれば――――」


 考え込むように腕を組んだ瞬間、メリッサが下げた頭を急に起こす。

 その時には既に白銀の閃光が再び、足元からクロウの顔に向けて放たれていた。


「同じ手を何度も――――!?」


 手で金属の横腹を叩いて弾き飛ばすと、その後ろにはもう一つ金属が飛んできていた。それも、最初に飛んできていた暗器の小さな金属とはわけが違う。

 投擲用のナイフ。それも普段から余程丁寧に手入れをされているのだろう。高速で飛んでいく軌跡は、一撃目よりも鮮烈な輝きとして網膜に焼き付く。

 思わずクロウが背中を仰け反らせて回避するが、仮面の一部を抉り取っていった。


「メリッサ!」


 再び強硬手段に走ったメリッサにマリーが叫ぶが、その声は彼女には届かない。

 スカートを摘まみ上げ、体が前傾する。このまま、一気に接近して勝負を決めるつもりだろう。地面を強く蹴り出す音が響くとその場からメリッサの姿が消えたように見えた。


「くっ!?」


 クロウが焦りながらも後ろに踏み出した足で何とか体勢を整える。何とか視線を空から前方に戻した時、既にメリッサが懐へと潜り込んでいた。


「失礼します。これも、お嬢様の為です」


 逆手に握ったナイフをクロウの首へと、すれ違いざまに振り抜いた。

 ユーキはその後の光景に既視感を覚える。

 噴き出す血。それは魔眼で見たクロウの姿と同じ真っ黒で、鮮血からは程遠い。けれども噴水の様に噴き出るそれは、まさしく血液そのものだ、と感じた。かつて自分がクロウの腕を斬り落とした時のように。

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