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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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剣閃煌くⅤ

 鍛錬施設の一角――――ストレートに表現すればトイレ――――で、壮大なリバースを繰り広げる男を傍らに、フェイは入り口で深くため息をついた。


「まったく……日頃から鍛えてないから、そんな姿をさらす羽目になるんだ。自業自得だよ」

「あのな。背中くらい擦る優しさがあってもいい――――」


 ユーキが言い切る前にリバース・セカンドシーズンが押し寄せてくる。フェイは眉根と頬を痙攣させながら応答する。


「逆にここまで案内してあげたことへの礼をもらいたいところだよ。評価を改めようと思ったが、先送りだね。ほら、そこに水桶置いといたから、さっさと洗って。流石に本格的な合同訓練の前に、魔法を使ってあげられるほどの余力はないんで、それで我慢してくれ」

「――――悪い。助かった」

「次は助けないから、自分で何とかしてくれ」


 サードシーズンの放出は無期限停止になったようで、数分後にユーキはフェイの用意した水で顔を洗うことになる。出すものがなかった分、逆に胸から胃にかけて痛みが増したようで、なかなか治まらない。

 思わず胸を擦っていると、フェイが横目でユーキを見つめてくる。


「どうしたんだ?」

「さっきの技について聞きたいんだよ。あれは僕たちが使っている剣術の技に酷似していた。それが気になって仕方ないんだ」

「あぁ、あれか。その場の思い付きでやった――――って言いたいところだけど、半分はお前の言う情報収集も戦いの内ってやつさ」

「なに……?」


 ユーキは腕を組んで、フェイの反対側の壁に寄りかかって、先ほどの戦いを話し始める。





(袈裟斬り――――からの首狩りっ! 次は小手っ!?)


 魔眼で先読みができても防ぐのは体だ。剣が打ち合わさった瞬間に、接点を起点として逆側に一秒とかからず閃光が奔る。

 型や構えなど関係なく、閃光を叩き落す勢いで剣を振るい、何とか生き延びる。

 どうやら力はユーキの方が上だが、対するフェイは無理やり剣を跳ね除けるのではなく、受け流すようにして攻撃を仕掛けてくる。


(あぁ、ちくしょう。早すぎて防ぐので精いっぱい。反撃なんてする暇もない。この瞬間、一撃一撃を返すのが限界だ)


 ほんの数秒の打ち合いにも関わらず、頭や体に酸素が回らない。打ち合う度に口の端から息と共に体力自体が漏れていくようだ。これが寸止めでなければ、剣の速度は更に増している。そう考えると、フェイの方が圧倒的に実力があることが身に染みて理解できた。

 数回の連続攻撃を防ぎ、ユーキが何とか一度距離を取る。すると、すぐにフェイが攻撃を仕掛けてくるので休む暇もない。

 そんな攻防を何度も繰り返された頃には、肩で息をしてしまっていた。


(さっきから、一撃目はずっと袈裟斬り。狙うならそこしかないけど、どうやって懐に飛び込む?)


 離れた一瞬の間に反撃の方法を考える。先制攻撃はリーチ差から不利。狙うならば自分がされたようにカウンターで返すべきだが、おそらく対策されているだろう。

 七度目の攻防を凌ぎきり、視界が歪む。先読みとしての魔眼使用は慣れていないせいで負担が大きいのか。頭痛も酷くなる一方だ。

 少しずつ、光とフェイの肉体の間隔も狭まってきていて、先読みが難しくなってきている。そんなことを考えていると、フェイがまた突っ込んできた。


(くっ……袈裟斬りが重い。受け止めてからでは反撃に遅れる。どうすれば……)


 思考がまとまらず時間だけが過ぎて、体力が削られていく。だが、不思議と攻撃から逃げ切った瞬間に、自分の中で気持ちが昂るのを感じていた。


(なんだよ。手も足も出ないのに、なんで俺はこんなに楽しんでるんだ?)


 フェイが飛び退くと同時にユーキは自然と笑みが出る。フェイは間違いなく、自分より格上の相手だ。だからこそ、その相手に喰らいつくのが楽しい。追いつくのが気持ちいい。そんな感情がどんどん湧いてくる。


(まだ、やれる。とことん最後までやりきって、準備運動のように余裕かましていたお前を――――)


 そこまで思考して、ふと思いつく。始める前に見たフェイの何気ない動き。剣の刀身部分を握ってストレッチしていた光景。それが自分の中でパズルの最後のピースのようにピタリと嵌る感覚があった。


(支える場所を変えて、剣を俺の鍔元で跳ね上げれば、どんなにアイツが攻撃を仕掛ける側でも俺の方が上手く返せるはず。そのまま、体が伸びたところを狙えば――――?)


 次の瞬間、フェイが今までと同じように斜め上から袈裟斬りに振り下ろしてきた。ユーキは左手を峰に添えて、鍔元で受け止めた瞬間、右足を踏み込んで木刀を相手の剣ごと振り回した。


(くっ、相手の剣の回転よりも速く逸らさないとやられる)


 ほんの一瞬、ユーキの中に焦りが生まれた。もともと二撃目は一撃目と逆側になるように放たれているのだ。それに対して、ユーキの跳ね上げが加わり、今までよりも早く迫る。

 思わずユーキは魔眼を通して映る自分の胴へ迫る閃光から身を反らし、()()()()()()()()体を反転させていた。跳ね上げた右手を相手の剣と一緒に下げて押さえつける。

 もはや、それは思考ではどうすることもできなかった。攻勢に出たと思った行動は、すべて反射的に身を守ろうとする行動に置き換えられる。


(あ……?)


 しかし、不思議なことに、気付けばユーキの左手を添えた先にある切っ先がフェイの喉へと向けられていた。

 相手の攻撃を察知して出鼻を挫くには、気の遠くなるような鍛錬と対人戦等の経験がなければ難しい。しかし、今回の場合は、運よく防ごうと反射的に動いた結果が、偶然カウンターの型にはまってしまったようだ。





 ユーキは魔眼のことを伏せて、フェイに最後の技の部分だけを説明した。フェイは片手で頭を抱えると苦笑いする。


「なるほど、あの何気ない動作で剣の握る位置の固定観念から抜け出したか。これは情報収集ではなく、君の発想力の勝利だな。だからといって、完璧にカウンターを決められたのは悔しいけどね」

「ただのまぐれだよ」

「まぐれも運も実力の内。戦場じゃ生き残った者が勝ちだ。もちろん、数の多い少ないは別の話だけどね」

「そういうことにさせてもらうよ」


 お互いに妥協点を見つけたところで、どちらからともなく握手をする。まだ若いせいか、あまりゴツゴツとした手ではなかったが、フェイの手の内に普段の努力の結晶であるマメの硬さが感じ取れた。手を放して、元いた場所へ歩を進める。


「とりあえず、さっきへばってた時よりは見直してくれるかな?」

「あれは鍛錬場で情けない姿を見せた君にイラついていただけだ。普段は、あんなこと言わないよ」

「それは悪いことしたな。へばらないように善処するよ」

「どうだか。明日には筋肉痛で動けない、とか言ってへばってそうだけどね」

「あー、あり得るかもな……」


 談笑しながら歩いていくと、伯爵が試合開始前の悪い顔のまま話しかけてきた。尤も、本人は面白いことがあって仕方なかったという表情のつもりなのだろう。

 ただ、傍にアンディがいる以上、そこまで酷いことにならないことをユーキは祈った。


「調子は戻ったか? さっきはなかなか面白いものを見せてもらった。まさか俺たちと同じ技を使われるとは思ってなかったからな」

「彼にも言いましたが偶然ですよ。ただ、もしかしたら刀の使い方でも似たようなやり方はあるかもしれませんが」

「ふむ。同じ形状のものを使う以上、行き着くところも似たものになるのかもしれんな」


 伯爵の言葉にユーキも頷く。刀でできることは剣でもできるし、剣でできることは刀でもできる可能性がある。もちろん、できないこともあるだろうが、ユーキは一つ剣術に関する学びを得られたと満足していた。


「そうですね。残念ながら基本的な技以外は何も知らない身なので、参考に見せる技がないのが残念です」

「いや、構わん。先ほどみたく、とっさに出る技が刀としての特性を活かした技にならないとも限らん。今後に期待する」

(あれ? これからもずっと訓練に出ろってことか)


 伯爵に言葉に戸惑っていると、アンディから助け船が出る。


「伯爵。あくまで彼が来るのは、今日限りと伝えてあります。今後の参加は彼の意思に委ねるべきです。もちろん、脅しはなしの方向で」


 意思を委ねるという言葉に伯爵が口を開こうとしたが、アンディの続く言葉で口が閉じられた。軽くとはいえ、本当に脅すつもりがあったのかもしれない。ユーキの隣にいたフェイが笑いながら伯爵の代わりに口を開く。


「僕も君が来てくれると嬉しい。ほら同年代って、あまり触れ合う機会がないからさ」

「そうだな。俺も剣術は学ぶつもりでいたし、伯爵が王都にいる間は生活に支障が出ない範囲で参加するかもな」

「本当か。よし、じゃあ、この後の鍛錬も張り切っていこうか」

「げっ。もうちょっと休憩を――――」

「何を言ってるんだ。善は急げって君の国では言うんだろ? さぁ、どんどん行くぞ!」

「ちょっと、待ってくれぇ」


 ユーキはフェイに腕を引っ張られ、鍛錬場中央に引っ張られていく。そんな様子を伯爵以下、配下の兵たちが微笑ましく見守っていた。

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