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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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追撃Ⅱ

 クレアはため息をつきながら、まだ倒れているハシシの顔を睨む。


「あたしはこいつを見張る。万が一、動かれた時に拘束することができるようにってのもあるけど、こいつを目的の場所まで連れていくことは防がないとな」

「……それは!」

「アンディ、行ってくれ。多分、みんなが戻るまでは大丈夫だと思うから。メリッサ、あなたもお願い」


 アンディはクレアを止めようとするが、彼女の揺らぎそうにない表情を見て周りを見渡した。


「確認をするだけ、でしたね。それならば、私とフェイ以外の騎士は全員ここでクレア様の護衛。出発の前にサクラさん、アイリスさん。この男を土魔法で身動きできないようにしていただけますか?」

「わかりました」

「まかせ、て」


 二人は即座に詠唱を行い、硬い岩で身動きができないように何重にもハシシを拘束していく。達磨というにはあまりにも胴体部分が大きい形になったが、その分だけ抜け出すのには苦労するだろう。


「ティターニア殿。ここで何かあった場合、あなたはすぐに察知できますか?」

「ティターニアで結構です。もちろん、わかりますとも」

「では、その時にはすぐに知らせてください。みなさん、行きましょう。ティターニア、案内をお願いします」


 身体強化で魔力を纏った一行は、空中へと飛び出したティターニアを追って駆け出した。

 その後ろを不安そうな顔でクレアが見送る。あまりにもその背中が寂しそうだったからか、騎士の一人が声をかけた。


「大丈夫ですよ。マリー嬢ちゃんは危なっかしいけど、伯爵に似て豪運の持ち主だから」

「そうだと良いんだけどね……。あたしはどちらかというと、変なところで母さん似なんだよね」

「……というと?」

「――――嫌な予感が良く当たるってこと」


 自嘲気味に放った言葉を追い抜くように風が吹き荒れる。だが、その風はクレアの言葉をユーキたちに届けることはなかった。





 アンディは、走りながらティターニアに問いかける。


「……それで? どれくらいの距離にあるんですか?」

「このまま行けば、数分とかからずに着くでしょう」

「それじゃあ、間に合わないかも。クロウさんの身体能力って、ここにいる誰よりもすごいんじゃないかな?」


 サクラが不安そうに呟くが、ティターニアはそれを否定する。


「いえ、少女の周りにはいくつか護衛を置いています。それに、幾重にも結界を施してありますから、そう易々とは近付けないでしょう」

「さっきの男をぶっ倒した魔法とか動きとかを見た後でも、それが言えるのかよ」

「……そうですね。前言撤回しましょう。追い付くかどうか怪しいところです」


 マリーの言葉を受けてティターニアの顔にも影が落ちる。下唇を噛み、何かを悩んでいるようにも見えた。そんな所にフェイが速度を上げて横に並ぶ。


「もっと早く移動できる方法、ありますよね?」

「それは……そうですが……」

「何だよ。それじゃあ、それでいこう!」


 ノリノリのマリーに対して、どうにもフェイの表情は暗い。

 嫌な予感がするユーキだが、言葉だけを考えれば早く移動できるに越したことはない。こうして追いかけている間にも全てことが終わっている可能性もあるのだ。


「わかりました。みなさん、()()()()()()()()()()()

「――――え?」


 何がごめんなさいなのだろう。そう考える暇もなく不可視の力が体にかかるのを感じ始める。気付いた時には自分たちの踏みしめていた地面が遥か下へと遠ざかっていた。


「う、うおおおおおっ!? なんだこれ!? なにこれ!?」

「ひいいいっ!?」


 ある者は悲鳴を上げ、またある者は口を閉ざし、真下に広がる光景に恐怖した。

 四肢を藻掻けど空振るばかり、進みたい方向どころか向きたい方向にすら向くことができない。


「ご、ごめんなさい。人を浮かべるのは初めてだったので、加減がわからず……」


 サクラたちの脳裏にクロウ(チャド)の声が蘇る。


 ――――見つかるとあんな感じで空に打ち上げられる可能性もある。もし、そうなったら気合で身体強化して着地しろ。


 まさに先刻の土人形の如く、空中へと打ち上げられた一行。運良く、枝が高いところにあったため、何にもぶつからずに済んだ。ほんの一瞬、浮遊感に襲われて着地のことだけを考えた一行だったが、幸運にもティターニアがコントロールを取り戻したおかげで、紐無しバンジーを避けることはできた。

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