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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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失踪Ⅶ

 戸惑っているクレアだったが、視界の端でクロウが軽く手を挙げる。


「ホットスプリングスで子供がいなくなったという話は出ていなかった。随分前から保護しているのか?」

「確かにかなり前からですけれど、彼女はホットスプリングスの出身ではないようです。私自身もどこから迷い込んで来たのかわかりませんでしたから」

「なるほど、本当の迷子ってわけですか」


 まるでクレアたちの考えを読んでいたかのようなクロウの言葉に驚いてしまう。

 自分たちが思っている以上に、目の前の男は情報収集をしているようだ。


「古巣にいた頃の癖でな。情報というのは生き残るのに一番必要なものだ。特に急いでいる時ほど、な」

「ご高説どうも。妹から聞いていた話よりも随分と話せるみたいだね。実は仮面で誤魔化して誰かと入れ替わってる?」

「どうだろうな? そもそも、エルフに変装して顔を晒すくらいだ。君が思っているよりも真相は面倒かもしれんぞ」


 強気に出てみるが、子供をあしらう様に煙に巻かれてしまう。だが、質問に対して、どのように応えるかによって、どんな人間なのかが見えてくることも有る。

 その点、クロウは必要のない嘘は言わないだろうとクレアは感じた。ただし、裏を返せばいくつかの真実を紛れ込ませた上で、ピンポイントで嘘を混ぜ込んでくる厄介なタイプだろうと予想する。

 その反面、真実を捉えられれば大きな収穫になる。無言を貫かれるよりも圧倒的に楽だろう。もちろん、それを見抜かれないように話をしてくることも考えられるから油断は禁物である。クレアはクロウの言葉を頭の中で反復しながら、怪しいと思ったワードがないか考える。

 そうしている内にクロウとティターニアが話を再開させた。


「秘密の園に狙われるとはツイてない。早めにその少女を追い出しておいた方がいいのでは?」

「残念ながら、意識が戻っていません。ここ数年はずっと眠ったままなのです」

「――――生きてるのか?」

「はい。どちらかというと、死ぬ一歩手前で踏みとどまっているようにも見えました。私にはどうすることもできず、ただただ見守ることしかできなかったのです」


 死にかけの少女。何故、それを狙う必要があるのか。

 クロウを警戒しながらもクレアは考え込んでいると、クロウの仮面が自分に向いていることに気が付いた。


「何か?」

「いや、随分と悩んでいるようだったからな。先ほど言っただろう、君たちも無関係ではないと。そうとは言っても俺が知っていることもそんなに多くないのだが。秘密の園の連中が考えていることは結構単純でな。奴らの目的の一つは単純に『知的欲求を満たしたい』ということだ。今回の場合は妖精庭園に彷徨い続けたまま過ごした人間がどんな変化を遂げているかを調べたいんだろう」


 ハシシがあまりにも強硬手段で来た為、どんなに恐ろしいことを考えているかと周囲の皆が身構えていたが、好奇心で連れ去ろうという考えはチェンジリングを行う妖精と似た部分があり、拍子抜けしてしまう。


「でも、それだと聖女殺しを企てたことと辻褄が合わないのでは? 彼でどれくらい戦えるかのテストをしていたとでも?」

「良いセンスしてるな。あながち間違いじゃないかもしれない。その男はちょっとばかりヤバい魔法薬で能力をブーストされている――――いわば改造人間だ。そんな奴を作り出したら、どこまで使える奴かを試したくなるのは創造主の性って奴だな」


 そこまで言って、クロウは「だが」と首を横に振る。


「問題は、その先だ。知識を集め、人の体を改造し、その先に何を望む?」

「……冗談、ではなさそうですね」


 アンディは一つの考えに至ったのか、驚きに目を見開きながらクロウを見つめる。


「今の会話から分かったのか?」

「えぇ、直感ですが――――目的は不老不死とは言いませんよね?」


 アンディのあまりにも飛躍した言葉に後ろに控えていた騎士も視線がクロウへ向く。


「本当にいいセンスをしている。伯爵の片腕にしておくにはもったいないな」


 軽く拍手をしながらクロウは頷いた。


「大自然の中で育った大妖精はエルフ以上の長寿。魔王は何度殺しても蘇ってくる化け物。キーワードとしては十分でしょう」

「そうだな。まったくもって、その通りだ。つまり、秘密の園の首魁は若者を攫って、自分の知識を使って実験し、自分自身で不老不死になろうとしている。そう取ってくれて構わない」


 クロウが怪しいと思い、言動に警戒していたクレアも突拍子のない結論に思考が追い付いていかない。半開きになった口をアンディが指で指摘するまで固まってしまっていた。

 しかし、本当に驚いたのは、その後だった。


「そこで、だ。その少女、今、どこにいるんだ?」

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