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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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共闘Ⅵ

「私の、力ですか?」

「そうだ。君の―――――力ならば可能だろう」


 途中まで何かを言いかけて、口籠った後、同じ言葉を言い直す。


「膂力という点において、アレと対抗できるのは君くらいだ。目にも止まらぬ移動速度、俺の魔法防御を貫通する腕力ならば行ける」


 吸血鬼の真祖として覚醒した際、月の八咫烏ですら反応するのがやっとで吹き飛ばされた。その本人が言うのだから間違ってはいないのだろうが、フランは首を横に振った。


「その、あの時のような力はもう出せなくて」

「出せないのではなく、出そうとする機会がなかっただけだろう? 今がその機会だ。アイツの再生能力は驚異的だが、痛みがないわけじゃあない。打撃による内臓へのダメージの方が動けなくさせられる時間が長い。そうすれば――――」


 既に出血の止まった脇腹は、傷口の肉が盛り上がり始め、肉体を再構成し始めていた。

 狂気に染まりながらも本能がそうさせるのか、再生に力を割いているのか。男からは近づいて来ようとする意志が感じられなかった。

 その男へと向き直ると月の八咫烏は軽く腕を振る。


「――――俺が仕留めてやる」


 落ちていた小枝の何本かが触れてもいないのに乾いた音を立てる。


「それで、どうやって援護すればいい?」

「お前は簡単だ。俺の合図で撃てるだけアイツに撃ちまくれ」

「簡単に言ってくれるな」

「お前ならできるだろ」


 何を根拠にしているかはわからないが、月の八咫烏は出来て当然とばかりに言い放つ。腹が立つユーキだったが、そう言われればやるしかない。覚悟を決めて右手に魔力を送り始める。

 逆に戸惑ったまま不安げな表情を浮かべるフラン。彼女は身体強化の為の魔力の運用方法は知識としては習っているが、戦闘の場で使用したことは一度もない。


「一応、言っておくが、君はその体質上、常に身体強化を使っている状態に等しい。まったく、それに気付いていれば妖精に襲われずに済んだのだが、結果的に上手く転んだから良しとしよう」

「常に、身体強化を?」

「そうだ。だからやるべきことは一つ。魔力の出力を上げればいい。俺にはその感覚がわからんが、少なくとも、君が全力を出したところで、そのネックレスが壊れることはない。安心して力を使え」


 魔力が不足すると吸血鬼としての本能で人を襲ってしまうのではないか、血を吸ってしまうのではないか。そんな恐怖がフランの中にはあったが、月の八咫烏の言葉で瞳に力が宿った。


「わかりました。ただし、一つ条件があります」

「おいおい。フラン。こんな時に何言い出してんだよ!?」

「……何だ」


 この期に及んで何を言い出すのか。マリーが慌てるが、フランは月の八咫烏の背中へと鋭く言い放った。


「私の父の行方、知っているのでしょう?」


 想定外の言葉に月の八咫烏も絶句した。それでも、動揺を見せずに答える。


「俺が正直に話すとでも?」

「はい。あなたは嘘が苦手そうですから」

「…………」


 はっきりと告げるフラン。

 顔だけ振り返った月の八咫烏は呆れた声で頷いた。


「わかった。ここを乗り越えたのなら、質問の一つや二つくらいには答えよう。それでいいな?」

「もちろんです。それで、私は何をすれば?」

「何も考えるな。アイツより先に拳をぶち込んでやれ。あのデカい腹のど真ん中にな」


 フランが胸を張って月の八咫烏の横へと並び立つ。

 ユーキの魔眼には少しずつフランの体から溢れだす魔力の色が変化し始めているのが見えた。紅の中に黄金が混じり、光の量も増えている。


「我々にできることは?」

「騎士共は死ぬな。何とか杖持ちを守り切れ。魔法が使える奴は何でもいい。アイツの動きを鈍らせろ」

「りょー、かい」

「任せときな。マリー、ここが踏ん張りどころだよ」


 クレアがマリーの肩を殴る。それも結構な勢いで。

 メリッサに助けられてから上手く体が動かないマリーだったが、その衝撃でスイッチが入ったようだった。


「いってーな! 言われなくてもわかってるよ。サクラ、もういっちょデカいのぶちかましてやろうぜ」

「う、うん……そうだね」


 魔力を使い過ぎたのか、元気のないサクラ。それでもポーションを飲んで杖を構える。


「よし、行くぞ。着いて来い」

「ど、どうなっても、知らないですからね?」


 月の八咫烏は告げると同時に、フランと一気に前へと駆け出した。

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