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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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共闘Ⅴ

 完全に拳を空振ってしまった男の眼前に二つの影が躍り出る。

 疾走する屈強な騎士二名。その二人がここぞとばかりにその剣に全体重をかけて突き出す。煌めく閃光の一つは抉られていない側の脇腹へ。もう一つは急所の喉へと伸びていく。

 裂帛の気合と共に伸び行く剣は、しかして届くことなく甲高い音と共に宙へと舞った。振り切った拳を裏拳で弾き飛ばし、首を捻って間一髪で避ける。そのまま一回転した勢いで、再び裏拳でもう一振りを弾く。


「――――くっ!?」


 無手になった騎士は、死に体のまま動くこともできず、恐怖で顔色が染まっていた。

 弾いて止まった男の腕は天高く掲げられている。言い換えれば、それは大振りの一撃が放たれる直前の構えと同義だ。

 だが、それよりも早く男の死角から更にもう一つ、白銀の閃光が弧を描いた。


「――――っ!?」


 狂気に染まった男もこれには思わず反応を示す。

 それもそのはずだ。なぜならば、その一撃はこの男にとって恐怖を呼び起こすに十分なものだからだ。


「一度斬り落としたその右手。もう一度、貰い受けるっ!」


 フェイが振り下ろす右手に合わせ、その手首へ一閃を放った。

 聖女を暗殺しようとした際に、返り討ちで右手首を斬り落とされた記憶が蘇ったのだろう。剣が半ばまで食い込むよりも先に、男は自らの腕を引いて飛び退る。


「手首まで再生するようなら、腕を斬り落としても再生しそうだ。もっと確実な一撃を食らわせるとなると――――」

「首を切り離すくらいしかないな」


 フェイが悔し気に顔を歪ませる横で、空中から落ちてきた剣を受け止めて騎士の一人が呟いた。

 それがどれだけ難しいかわかっているからこそ、他に方法はないか思考を巡らせる。何とか攻撃を加えることができたが、相手は完全に警戒状態だ。下手に手を出せば、カウンターを食らうは必至。膠着状態のように見えるが、時間が経てば傷が回復していくことを考えると相手が圧倒的に有利だ。


「……何か他に手はないのか」


 ユーキも魔眼で男をじっと見つめるが、その視界からは何も情報は得られない。せめて、再生するたびに体を覆う光の量が減っていてくれればとも思ったが、その様子もない。もし魔力が尽きても再生するのだとしたら、手の打ちようがない。

 手足を封じて水底に沈めるくらいしかユーキには思いつかなかった。尤も、それすらもオーウェンの水の牢獄に閉じ込められて、平気で動いていたことを考えると通じるかどうか怪しい。


「おい」

「うわっ!?」


 いつの間にか近くに寄ってきていた月の八咫烏に話し掛けられ、ユーキは悲鳴に近い声を挙げる。


「お前、ガンドはまだ撃てるな?」

「あ、あぁ。まだ余裕はある」


 流石に残弾数が幾つあるかまでは言えなかったが、その答えで月の八咫烏は満足したようで顎で不敵な笑みを浮かべる男を示した。


「俺を援護しろ。上手くやれば、動きを封じることはできるかもしれん」

「できるのか?」

「やってみないとわからんがな。もう一つくらい策が欲しいところだが……」


 仮面で表情が伺えないが、ある一点でその視線が止まったことはユーキにもわかった。その視線の先にいたのは、オロオロとしながらもユーキたちの方へと視線を投げかけるフランだった。

 使える魔法は火球魔法。しかも、気を抜けば魔力を大量に消費して無限に放つ機関銃と化してしまう。妖精庭園というこの場において、もっとも動き辛い人物だ。

 しかし、月の八咫烏はそのフランの横へと一瞬で現れる。その光景に思わずマリーが杖を向けるが、それを気にせず、仮面をフランへと近付けた。


「ひうっ!? あ、あなたは」

「――――力を貸してくれ。アイツを倒すのに君の力が一番有効だ」

「へっ!?」


 間抜けな声がフランの口から洩れた。

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