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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第2巻 漆黒を歩む者

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剣閃煌くⅢ

 ユーキが城への門を潜るのは、これで二度目だ。ただし、今回は門から正面には進まずに脇の道に沿って兵舎と鍛錬場のある方向へと進む。以前は緊張で周りを見る余裕がなかったが、近づいてみると城の大きさに驚かされる。正直なところ、ドラゴンが巣食っている城と言われても驚かない程度には大きい。

 アンディに促されて鍛錬場に入ると、鍛錬場自体に天井はなく、あくまで城壁で簡単に区切った部分が鍛錬場として扱われていた。渡り廊下部分と観客席のような階段状の部分とがあり、ボールとゴールがあればサッカーができそうだ。

 そのフィールドのあちこちで自主鍛錬が行われており、中央では伯爵も例に漏れず剣を振るっていた。昨日見た白銀の鎧とは違い、いかにも一般兵ですと言わんばかりの量産型装備であるが、伯爵本人のオーラは隠せてはいない。

 ユーキの緊張した視線に気付いたようで、アンディが口を開いた。


「実は昨日の装備よりも重くなってるんですよ。昨日の鎧は材料が特別製ですが、こちらは量産型の一般的なものです。重量が重い分、足腰の強化には最適です」

「なるほど。しかし、本番は鎧が軽くなった分、大きな敵が相手ならば吹き飛ばされたり、体勢を崩されたりしそうですが」

「時と場合によりますね。ただ、大抵の場合はオーガ以上の巨体相手に一撃喰らって戦闘できる方が稀かと。それならば機動性を上げて避けた方がいいかもしれません」

「そうですね。どのような敵に対して、どんな装備が有効かは今度、教えて貰えますか?」

「えぇ、もちろん。でも、今日は目の前の鍛錬に集中しましょうか」


 アンディと装備談義をしていると、伯爵が気付いたのか歩み寄ってきた。もし、周囲の人たちと同様にずっと素振りをしていたのだとすれば、息も乱れず汗一つかいていないのは流石と言う他ない。


「何だ。意外と来るのが早いじゃないか。拉致ってきたの――――」

「――――伯爵と一緒にしないでください」

「お、おう」


 正直、伯爵とアンディの立場が逆に見えるのは気のせいではないのかもしれない。ただ、立場を超えた一種の男友達のような雰囲気も感じられる。


「さて、少年。ユーキだったか。急に呼んで悪かったな」

「いえ、正規の騎士団と訓練ができる機会など、そうありません。感謝しています。ローレンス伯爵」

「ははは、そう畏まるな。聞けば私の娘と友人を助けてくれたと聞いた。感謝するのは私の方だ」


 笑顔の伯爵に肩を軽く叩かれる。こうして接してみると、ユーキは伯爵のカリスマ性をなんとなく感じることができた。武人としての力強さと他人と気さくに話し合える懐の深さ。少なくとも、ユーキの考えていた貴族という姿からはかけ離れていた。


「まぁ、何だ。とりあえず、肩書きとか関係なしに男として力を見たいってことだ」

「わかりました。よろしくお願いします」

「よし。今日の訓練は剣主体の騎士ばかりだ。流石に試合は木剣で行うが、木刀も用意してある。刀使いとの勝負はなかなかできないから楽しみだ」


 伯爵の視線はユーキの腰にある刀へと向けられる。


「いや、俺は刀を使い始めたのは最近ですよ」

「構わん。得物が違えば、自然と体捌きも変わってくるものだからな。同じ剣という部類でも様々あるのだ。少年には少年の、我々には我々の武器の扱い方がある。それが始めたばかりのものでもな」

「そうですか。では、胸を借りるつもりで臨みます」

「ふむ。なかなか聞かぬ表現だな」


 その後、ユーキは騎士団が全員集まるまで日本特有の慣用句や言い回しを説明しながら、アンディと伯爵と談笑をしたのだった。そもそも、和の国との交流はあっても商人の方が多く、貴族や騎士団などはあまり会う機会が少ないらしい。そういう意味では、伯爵がサクラと初めて会った時も、質問攻めにしてしまったのだとか。


「おっと、そろそろ、集まったようだな。それじゃあ、少年。君の力を見せてもらおうか」





 鍛錬開始一時間後、ユーキはその場に大の字になって寝転んでいた。


「はっ、はっ、はっ……」


 一時間と言っても走り込みと筋トレのようなものを行っただけなのだが、意外と早く体が悲鳴を上げていた。

 そもそも、戦闘を行ったとはいえ、こちらに来てからの主な活動は薬草採取だ。毎日、戦闘に備えて訓練しているプロとは土台が違うのだから当然でもある。


「ちくしょう。体力には自信がある方だったんだけどな」


 昔から走るのも泳ぐのも得意ではあったが、それでもきつく感じるのは鎧という重りがあるからだろう。おそらくではあるが、鎧を着た時の楽な動き方というものがあるようだ。

 この後は軽食を取り、軽く木製武器による素振りを行った後、試合を行う予定になっている。だが、ユーキの体はへばったまま動く元気がない。

 そんな様子で青空を見上げていたユーキの顔に影がかかる。そこには既に試合に備えたのか木剣を手にした騎士が佇んでいた。逆光で見にくいが、金髪であることだけは判別できた。背丈と体の幅からすると同じくらいの年のようだ。

 そんな姿をぼーっと見ていたユーキに、ほんの少しドスの利いた声がかかる。


「おい、そんなところに寝転んでると邪魔だ。どけ」

「あぁ、すまない。すぐに退くよ」

「……まったく。こんな男がよく騎士になれたものだ」

「同感だ。俺も痛感してるところだよ」

「ふん。身の程はわきまえているようだな。さっさと、飯を食え。……試合中に口から全部戻したいのならば別だけどな」


 そう言って、ユーキは顔面にパンを押し付けられた。思わず、目を瞑って両手で庇ってしまう。そのまま、落とさないようにパンを持って、起き上がる。

 既に話しかけて来た騎士の姿は鍛錬場の向こうへと歩き出していた。


「まぁ、騎士団の連中からしたら気に入らないだろうな。爵位としての騎士を持っていても、腕っぷしは弱いんだから。まぁ、爵位は保留だけどさ……」


 そう呟いて、パンを一口頬張った。少しばかり塩気があって、食べやすくなっている。汗もかいたので塩分の補給には、ちょうど良かったかもしれない。

 あらかじめ持ってきていた水筒で喉を潤し、残りのパンもよく噛んで飲みこむ。


「さて、もうひと頑張り行きますか」


 木刀を壁際の置き場から持ち出し、鍛錬場へと進む。腹ごなしも兼ねて、軽く素振りをするためだ。

 各自で三十分程度の素振りをする時間が与えられており、それを終えると、伯爵から全体へ集合がかかる。大体二十人強の集団が四つほどだが、すぐに整列できる辺りは軍隊としては当然なのだろう。

 伯爵の指示は数人の集団に分かれて寸止めの素振りを行うことだった。

 ユーキは、そもそも武器の種類が違うので隅の方でひっそりと素振りをすることになるのだが、先程から一つ困ったことがあった。


「剣術の素振りって、どうやるんだよ……」


 剣道の素振りならやったことはあるが、剣術としての素振りをユーキは知らない。正眼の構えからの振り上げるまでは剣術でもあると思うが、その後の振り下ろしはどこで止めるのだろうか。剣道ならば正眼の位置か、それよりもやや上の面の位置で止めるのだろう。しかし、剣術の場合は振り下ろし切らなければいけないのかもしれない。

 横目で他の集団の動きを見る。緩やかに、しかし、切っ先が相手の膝の辺りに来るような形で振っていた。


「とりあえず俺は知っている形でやっておこう。下手に我流でやると、後で大変なことになりそうだ」


 かつて中学校のときに習った剣道を復習するように、面を打つ素振りを行う。前に出ながら打ち、後ろに下がりながら打ち、何度も往復する。時には小手や胴の動きも入れてみるが、あまり上手くいかない。ユーキは振るまではいいが、実際に試合をすると放った後の残心までの動きが得意ではなかったことを思い出す。


「こんなことなら、もう少し剣道の授業をしっかりやっておくべきだったな」


 ユーキは本日何度目かわからないため息をつく。

 しばらくすると、再び伯爵の声がかかり、鍛錬場を六つに区切って試合を行うことになった。強制的に伯爵と同じ組になり、五人くらいの騎士団員と顔を合わせることになる。


「まぁ、剣を持ったのは最近だそうだ。新兵だと思って軽く揉んでやってくれ」


 伯爵の言葉が、どこまで他の兵に届いているかわからないが、少しだけ気持ちが軽くなった。ただし、木刀を持っていることや人種が違うからか、騎士団員の視線が痛いほど刺さる。伯爵の指示で真っ先に試合をすることになり、区切られたエリアの中央へと進む。


「何だ。先ほどのヘタレが相手か」

「ん……?」


 聞いたことがある声に相手の顔をよく見る。輪郭や髪の色からして、パンを持ってきてくれた騎士なのだと理解した。思わず見とれてしまう程の整った顔をした金髪碧眼の美少年だった。


「一応、名乗っておこうか。僕の名はフェイ・フォーゲル。君の名前を覚えるかどうかは、君次第かな?」

「あぁ、ご丁寧にどうも。ユーキ・ウチモリだ。礼儀として返させてもらう」

「じゃあ、これ以上話すこともないし、さっさと始めようか」


 フェイはロングソードを模した木剣の柄を右肩辺りまで上げて、切っ先をユーキに突きつける。対してユーキは左手に持っていた木刀を正眼の構えで、フェイの方へと向ける。二人の視線が交わると伯爵から開始の合図が告げられた。

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