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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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妖精庭園Ⅳ

 言葉に詰まるマリーの様子を尻目に、アンディは冷静さを欠かず、チャドへと語り掛ける。


「チャド殿。我々の主人の娘をあまり責めないで頂きたい。それを言ってしまうなら、あなた様の場合は依頼主への情報提供を出し渋って危険に晒したと非難されかねませんよ」


 ――――くだらない揚げ足取りはやめて知っていることをさっさと話せ。


 一見すると丁寧に聞こえる言葉も、裏を返せば鋭い非難に早変わりする。それを理解できないチャドではなく、一瞥した後に近くの木の根を椅子代わりに腰を下ろした。


「妖精庭園の中で植物を傷つけてはいけない。傷つけるものを取り出してはならない。これが第一原則だ。それを破ると妖精庭園から弾き出されるか。ここの主に殺されるだけだ」


 当たり前のことのように淡々とチャドは現在いる場所の情報を話し出した。

 それを聞いて、アンディとフェイなどの騎士以外が他の木の根へと腰を下ろし始める。


「殺されるって、何でわかるんですか?」

「そう長老から聞いている。興味本位で妖精庭園に乗り込んで行った若者がそうやって死んでいくのを見てしまったことがあるらしくてな。どの種族であろうとも、ルールを破る愚か者は一定数いるということだ」


 自嘲気味に溜息を吐くと腰に着けた袋から木の実を取り出す。


「話を戻そう。だから、この場所では生えている木の実にすら手を出すのは危険だ。火を起こして食べるなんてもってのほか。その点、注意して持ってきているだろう?」

「はい。チャド殿の言う通りに日持ちはしませんが、食べやすいものを選んで持ってきています」

「それでいい。そして、ここからが本題だが、攫われた人間を取り戻すのは難しい話じゃない。見つけ次第、さっさと引き連れて森を突っ走って突破すればいい」


 当たり前のように言うが、それには全員がどう返答を返して良いか一瞬戸惑ってしまった。ここに来るまでの道のりなど、もう覚えていない。どちらの方向にどれだけ走ればいいのかなんてわかるはずがないのだ。


「……そんなことできるはずがない、とでも言いたげな顔だな」

「そんなことができるのは、あなた方エルフくらいのものです。私たちに同じことを要求されても無理ですよ」


 メリッサは呆れたように返す。それに同意するかのようにほとんどの者が頷いた。黙っている騎士ですらも大きく頷いている者がいる。


「そうでもないさ。むしろ、私より諸君ら騎士たちの方が詳しいはずだが?」


 その言葉を聞いて、騎士たちが僅かに動揺する。互いに顔を見合わせ、そんな方法知っているかなどと小声で話し始める。

 そんな中でサクラはふと見つめていた地面から顔を上げて呟いた。


「太陽の……位置?」

「そうか。植物を育てるには本物の太陽が必要だから、それを誤魔化すわけにはいかないもんな。こんな空間を作っても、太陽だけは信じられるってことか」

「二人ともすごい、良くすぐにわかったね!」


 はしゃいでサクラとハイタッチを決めるマリーだったが、その隣でアイリスがぼそりと呟いた。


「それでも突破するのに、かなり時間がかかる。妖精の、邪魔が入る」

「そうだね。相手がそう簡単に見逃してくれるとは思えないな」


 アイリスの言葉にクレアも同意する。いずれにせよ、ユーキを連れてここを出るには攫った妖精の妨害を潜り抜けねばならない。ましてや妖精庭園の主ともなれば、それを突破するのは至難の業だろう。それこそ、剣や杖を抜いた時と同じように、大勢の妖精に襲われかねない。


「その心配はしなくていい。取り返しに来た者を追い払う程、彼らは暴力的ではない」


 チャドはその意見を一蹴する。

 それに反論したのはフランだった。


「でも攫うってことはそれだけ欲しいってことですよね? それを簡単に手放してはくれないんじゃないんですか?」


 人間が誘拐する場合なら、その目的はいくつか存在するだろう。金目当てであったり、怨恨が原因であったりだ。いずれにせよ、その攫った対象は目的が果たされるまでに解放されることはあり得ない。


「彼らの子供が代わりに残されていなかったということは、チェンジリングではない。彼らの理論からするとね。これは保護なのさ。我々にとっては理解しがたいがね」

「保、護……?」


 その言葉を口の中で呟きながらも、どこか納得できるといった表情をサクラは浮かべた。

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