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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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一時避難Ⅰ

 サクラたちの乗った馬車がホットスプリングスに着いたのは陽が沈んですぐだった。西の空が赤から紺へと変わり切り、上空には星々が輝いている。

 早馬を飛ばしていたことも有って、宿の確保はできていたが、待っていた騎士は不安だったに違いない。それこそ、何かあったのではないかと馬を走らせようと村の出口まで出てきていた。


「お疲れ様です。心配をかけたようですね」

「いえ、自分が早とちりをしたにすぎません。お恥ずかしい姿を見せてしまいました」

「早とちり、でもないですね。何しろ一人行方不明になってしまいましたから」


 その言葉に若い騎士の顔が蒼白になる。

 自分の不手際があったかどうかはわからないが、結果として行方不明者が出ている以上、早く駆け付けるべきだったと行動の遅さを悔やんでいるようだ。

 しかし、その様子を見て、アンディは青年の肩に手を置いた。


「安心してください。これはあなたの責任ではありません。もちろん、結果として責任を負わなければいけませんが、それは私の役目です」

「た、隊長。じ、自分にできることはありますか?」

「そうですね。明日からは大規模な捜索が行われると予想されます。体力勝負になるでしょうから、精のつく料理を増やすよう伝えておいてください」

「了解しました」


 アンディは素早く掛けていく騎士の後姿を見送って、自分の主の娘たちが乗った馬車へと振り返る。

 濃い霧の中だったとはいえ、馬車に乗っていた中央の人物を一切の抵抗もさせずに攫うなど不可能に近い。メリッサ曰く、「妖精の仕業である」ということですぐに対処できることではないと、本来の目的地へ到着することができたが、状況としては芳しくない。

 ここにいるのがビクトリアであったならば、何とかする方法も浮かんだかもしれない。だが、アンディにはそちらの知識が不足していた。攻撃魔法へ対処方法は浮かぶが幻覚や空間転移になれば、門外漢なんてものではない。


「異界に攫われた人間の救出作戦ですか。まだ魔物渦巻くダンジョンに救出に行く方がわかりやすくていいですね」


 ため息をつきたくなる気持ちを抑えて、アンディは馬車から降りてくるクレアたちへと視線を移す。頭の中が消えたユーキのことで頭がいっぱいになりかけるが、その思考のままでは残った人員を守りきることはできない。

 すぐに意識を切り替えて、クレアの近くまで歩いていくとフェイが話し掛ける声が聞こえてきた。


「とりあえず必要なのは妖精庭園に侵入して、無事に戻る方法です。恐らく、アンディ隊長が御実家に連絡をしてくれるとは思いますが、皆さんの方でも考えておいていただければと」

「わかった。フェイの方は自分の仕事に集中して。その間にできることをやっておくから」

「わかりました。お願いします」


 そう言うと、クレアたちは他の騎士に先導されて宿へと歩いていく。それと入れ替わる形でアンディがフェイへと近づいた。


「隊長……」

「すまない。まさか、こんなことが起こるとは」

「妖精相手じゃ難しいです。もしかするとビクトリア様でも反応できなかったかもしれません」

「……君が言うのならば、そうかもしれないな。私の方で早馬を走らせておいたが、君の方から良い案は浮かぶかい?」

「……なくはないですけど、厳しいですね。穴だらけな上に危険です」

「夕食後に明日の捜索活動の方向性だけでも決めないといけない。私と副隊長、あとはお嬢様方で話し合わなければいけないが……フェイ、君も同席してくれ」

「わかりました。馬車を所定の場所に置いてくるので、見張りの交代を後でお願いします」

「わかった。油断しないでくれ。敵は妖精以外にも有り得るからな」


 互いに無言で頷いた後、フェイは篝火に照らされた夜道を見張り役と共に進んで行く。何十頭という馬が進んで行くのを見送った後、アンディは宿泊する宿の門の内側へと一歩踏み出した。

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