迷子Ⅵ
馬車の中に沈黙が訪れた後、アイリスが怪訝そうに尋ねた。
「お化けって、あのお化け?」
「そうだよ。死んだ後に出てくる魂とかなんかそういうやつだよ!」
何かの聞き間違いかもしれないと思っていたユーキも、その返事を聞いて、意外なことに受け止めてしまえていた。
魔法が存在するのだから幽霊くらいいてもおかしくないだろう、という考えが出てしまい、もはや納得すらして自己解決している。ウンディーネがいる前では口が裂けても言えないが、精霊だって一歩間違えれば幽霊になってしまうだろう。
ただ一つだけ気になっていることと言えば、地図のマークだった。
「それで? 何でドクロマークだったんだ?」
「幽霊が出るってことは、死体とかあるかもしれないだろ? なかったとしても悲惨な死に方をした場所だったり、危険な場所だったり、ってことがあるかもしれないじゃないか!」
言っていることに筋道が立っているような気もするが、どうにも引っかかるところがある。ユーキはクレアへと視線を移して、捕捉を促した。
「まぁ、あたしが当時十歳くらいで、マリーが七歳。そいつが出たのは、こんな霧の立ち込めた夜中だった。マリーだけが騒いだのならあたしだって見間違えだろうって相手しなかったけどさ。お花摘みに着いて行ったあたしも見ちゃったんだよね。流石にアレを見たらそんなことは言えないね」
そう言って、クレアは一呼吸置いた。
「今のあたしと同じくらいの背の高さで、青白く半透明な女の人。一応、足首まである服も着ていたんだけど、向こう側が透けて見えたんだ」
「その女性に見覚えは?」
「ないね。顔をよく見たわけじゃないけど、少なくとも、知っていたらそこまで驚かないと思う」
「いや、俺は十分驚くけどな」
半透明な知り合いがいたら、まず間違いなくユーキは腰を抜かす自信がある。
それにしても半透明だというのに、なぜ服の下の体は見えないのだろうか、という疑問がユーキは浮かんだが、それを言うと変態扱いされかねないのでクレアに発言権を譲る。
「まぁ、あたしも最初は魔法で追っ払えばいいやって思ってたんだけどさ。何が恐ろしいって、魔法がすり抜けるんだよ。風だろうが、火だろうがお構いなしでね」
宮廷魔術師である母親によって鍛えられていた当時のクレアは、自信満々で魔法を放ったことだろう。そして、同時に魔法が効かない相手ということに絶望をしたに違いない。魔法が使えなければ、ただの子供だ。たとえ棒切れを振り回したとしても、魔法が効かないのであれば、物理攻撃など効くはずがないのは誰にでも理解ができた。
「地面から一メートルくらいの高さを滑るように飛んできて、あたしたちの前に着地したんだ。そして、私たちを連れて行きたいとでもいうかのように手を差し出したところで、夢から覚めたかのように急に消えてしまった」
「え? 何で?」
「さぁね。すぐに母さんが魔法を使った気配を察知して駆け付けてくれたから、多分、それが原因なんじゃないかな?」
流石の幽霊も宮廷魔術師の殺気には気付いたのだろう。幽霊になってまで二度目の死を迎えたいと思う者はいないはずだ。
クレアが話し終えた横で、マリーは血の気が引いた顔で辺りを見回していた。まるで馬車の中に幽霊が紛れ込んでいないかと怯えているようだ。それを見てユーキは胸元へと疑問を投げかける。
「なぁ、幽霊って俺の結界に侵入できると思うか?」
「幽霊がどういうものかわかりませんが、人の思念体ないし、魂と仮定するのであるならば、ユーキさんの結界クラスだと余裕で消し飛ばされますね。だから、馬車の中にいる限り……正確にはユーキさんの周りにいる限りは幽霊も出てこれないでしょう」
「だってさ、だからマリー。少しは安心して大丈夫だ」
「ほ、本当か? う、嘘だったら、殴るからな」
何故、自分が殴られなければいけないのだと理不尽さを感じながら、ユーキは魔眼を開いた。
フェイに警告されていたが、自分の周りに結界があるのならば幽霊がいても大して悪さはできないだろうと考えたからだ。
そんな浅はかな考えで魔眼を開いたことをユーキは後悔する。焦った顔でユーキを見るフェイの横に、青白く透けた虚ろな目の女性が覗き込んでいたからだ。
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