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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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迷子Ⅳ

 昼を過ぎたにも関わらず、馬車は止まらずに走っていた。

 流石にユーキもおかしいと思い、チラリと腕時計を見ると短針は既に二時を通り過ぎている。


「なぁ、あたしたちは馬車の中でご飯も食べられるけどさ。馬に乗ってる人たちや馬自身はそろそろ休憩も必要なんじゃないか?」

「そうね。ちょっとフェイに聞いてみる?」


 マリーの意見を聞いて、クレアが御者台の窓をノックする。

 御者台に乗ってこそいるが、先導する人たちも大勢いるため、多少よそ見しても馬たちは暴走しない。手綱を片手に握って、フェイが窓から覗き込む。


「どうされました?」

「そろそろ休憩をした方がいいんじゃないかって心配していたんだけど、そっちは大丈夫?」

「――――えぇ、心配ありません。これくらい、どうとでもなります」


 フェイの顔が一瞬だけメリッサへと向いた。

 ユーキは気付かれない様にその横顔を盗み見るが、至って普通の表情に感じた。むしろ、私には関係がありません、とでも言いたげな様子だ。


「あたしたちは大丈夫だけど、最後の休憩から大分時間が経っているから、あまり無理をしないでね」

「わかりました」


 フェイはそう言って再び前方に注意を向ける。

 何も違和感を抱かない会話が、今だけは不気味に覚えた。ユーキは扉についている窓から外の様子を窺うが、代り映えのない緑色の景色が広がっている。


「メリッサさん。今日はどこまで行く予定でしたっけ?」

「そうですね。距離的に言うならば、出発したダンジョンとホットスプリングスとを直線で結んで、三等分した内の二つ目の位置で野宿になる予定ですね」

「――――ということは皆さんが急いでいるのは何故でしょうか?」

「きっと、早くホットスプリングスに行きたいのでしょう。野宿よりも安全ですし、早く着けば宿泊日数が増えますから。アンディ隊長も欲には逆らえなかったんですね」


 フランの疑問に微笑を浮かべながら答えるメリッサ。

 午前とは打って変わって、読書という名のお勉強から解放されたマリーは諸手を上げて喜んだ。


「まじか。それで、早く着くってことは二泊じゃなくて、三泊になるのか?」

「まぁ、マリー様たちの予定では二泊ということでしたが、どうなっても良いように事前に支度金は四泊分で計算してあります。ご安心ください」

「よっしゃあ!」

「――――馬車移動がない分、勉強時間も増やさせていただきますので、ご承知おきください」


 風船がしぼむよりも早く、マリーのテンションは消えて行ってしまう。

 ユーキからすれば、午前四時間、午後二時間くらいの授業は小学校の時から経験しているので当たり前のように感じてしまう。

 しかし、こちらの魔法学園では大学と同じで授業選択制。一授業につき一時間で、きつきつに詰めれば午前午後で四時間ずつのハードスケジュールな日課を過ごすこともできるが、大抵の場合は午前で多くて三時間、午後二時間らしい。

 そう考えるとマリーにとっては五時間以上の勉強はかなりハードなのだろう。


「母さんの特訓は能力が上がっていく気分がするから良いけど、勉強は全然そんな気分にならないなぁ」

「マリー、学問は一日で習得できるようなものじゃないの。一つ一つが生涯をかけて探求した成果なんだから、それをカンニングさせてもらっているだけありがたいと思わなきゃ」


 クレアのアドバイスもマリーには届かず、魔物のような悲鳴が馬車の中に響き渡る。

 そんな中、口数が少ないアイリスは午前午後を問わず、ひたすら書物を読んでいた。


「その点アイリスは凄いよな。時間さえあれば本をずっと読んでいられるんだから」

「新しいことを知るのは、楽しい」


 本から視線を逸らさずにアイリスは答える。

 ユーキも読書は好きだが、アイリスのそれは相当なものだ。彼女が飛び級の天才なのも、ひとえにこの長時間集中して知識を吸収するという姿勢があったからだろう。好きこそものの上手なれ、を体現していると言ってもいい。

 みんなで談笑しながら、温泉街までの到着を待っていると、急に馬車のスピードががくんと落ちた。それも、急ブレーキのような勢いだったため、後部座席の四人は思わず前へと倒れかかってしまう。

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