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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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迷子Ⅱ

 何かの物音を聞き違えたのだろうか、とユーキが薄目を開けて周りを確認するが、少なくとも周りの誰かが出した音ではない。何か音を出す物が馬車の中に存在するかと思ったが、暗くて判別できない。

 魔眼を開こうかと思い悩んでいると、御者台側の窓枠からフェイが覗き込んでいた。その顔を横にゆっくり振って、何かを伝えようとしている。


 ――――僕から言えることは、魔眼を使わない方がいいってことかな。特に夜の間は、ね。


 ふと、フェイがユーキに忠告した言葉が脳裏に過ぎった。

 一抹の不安こそあったが、周りには大勢の騎士がいるし、フェイも起きて見張ってくれている。そもそも、フェイが忠告したということは、何かしら原因を知っているということだ。つまり、その対策もできていると考えていいだろう。

 ユーキは静かに頷いて、目を閉じることにした。瞼の裏に僅かに光の帯が舞って、聴覚や触覚が鋭敏になっていく。そのせいで個人的に別の試練がユーキを襲ってくることになってしまう。端的に言うなら生殺し、という表現が適切だろう。聖人君子でも何でもない健全な男としては仕方のない反応だ。

 結局、ユーキが寝入ったのは草木も眠る丑三つ時。騎士たちも何度か交代して眠っていたが、ユーキほど精神的に疲れていた者はほとんどいなかったはずだ。





 そんな中でフェイはユーキが完全に眠るまで、目を閉じてこそいたが聴覚を研ぎ澄まして、周りを警戒していた。

 警戒していたのはダンジョンから漏れ出てくる魔物でも、辺りをうろついている野獣でもない。

 ただ誰の目にも止まることなく、近くまで接近し、何事かを囁く存在を探っていたのだ。


「……気付いてるかい?」

『もちろんです。でも、これは反応するべきではないのかもしれませんね』

「そうだね。だから耳障りだけど、ここは何とか無視して切り抜けよう。少なくとも、彼を持っていかれるのは癪だからね」


 そう言ったフェイの顔は険しい表情に歪んでいた。

 怒りというよりは苛立ち、嫌悪というよりは不愉快というように読み取れなくもなかった。まるで見えない蚊が周りを飛び回っているようなものだろう。

 

「どうした、フェイ? なんかあったか?」

「いえ、なんでもありません。ちょっと独り言を言いながら確認作業をしていただけなので」

「そうか。ま、朝出発したら上手く行けば夕方にはホットスプリングスに到着だ。アンディ隊長がちょっくらとばしてくれることを祈るのみだ」


 先輩騎士は御者台の車輪に寄り掛かりながら空を見上げる。


「速度を上げるとなると恐らく前みたいな速度になりかねませんよ」

「まぁ、わかってるんだけどな。できればお嬢様方の為にも()()()はさっさと抜けにゃならんだろ」


 心底嫌だ、という風に先輩騎士は頭を振った。

 夜中の見張りということも有って、話したくなる気持ちがフェイには理解できたが、この状況ではまずいと思って、その先を言わせまいと口を挟んだ。


「いくら寝ている時間とはいえ、その話はやめましょう。万が一、起きていたら大変です」

「そうだな。俺が悪かった。今のは忘れてくれ」


 そう言うと先輩騎士は反動をつけて、馬車から離れる。車輪が僅かに軋む音を立てるが、中にいる人を起こすほどではないだろう。

 片手を上げて振りながら先輩騎士は最後にこう言って去っていく。


「ま、とりあえず、()()()()()()()()()()辿り着こう。陽が出ている内にな」


 その言葉にフェイは沈黙で返した。


『やはり……()()()とマリーさんたちには関係があるんですね』

「……うん。被害は最小限で抑えられたけど、今回はユーキがいる。本当に良くも悪くも、ね。どっちに転ぶかわからない。だから、ビクトリア様もメリッサを同行させたんだろうし」

『それなら、そんなところ通らなければいいのでは?』

「それに越したことはないんだけどね。二人の意見を否定する権限は僕にはないんだ。それにホットスプリングスに寄らなくても、距離的にはほとんど変わらない。それなら、まだ野宿よりは随分とマシになるさ」


 二人の聞く人のいない会話は、森の闇へと消えていった。

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