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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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凱旋の一歩Ⅳ

「いいのか? 両親はいなかったけど」

「いーや、いたぜ。いつもの執務室の窓から、二人とも見てた」


 マリーは頭の後ろに手を組んで天井を見る。王家が渡してきた馬車だけあって、内装も少しばかり飾りがしてある。

 マリーが見ている天井から目を離し、ユーキは改めて馬車の中を見回した。

 空間を捻じ曲げられていて、本来ならば横並びに座ると確実に押しつぶされそうになるはずなのだが、何故か七人とデカい荷物一つがきれいに収まってしまった。後方側の入口からメリッサ、ユーキ、サクラ、フラン。進行方向側では、荷物、マリー、クレア、アイリスが並ぶ。

 天井から視線を戻したマリーは思考が終わったのか、ユーキに問いかけた。


「たださ、あたしたちの前ではお互いに恥ずかしい言葉を出す癖に、実の娘には何一つ言わないのはどうなんだろうな?」

「二人とも今更何を言っていいか案外わかっていないのかもね。何となく、そんな気がする」

「えー、そりゃないよ。だって、普段からこう……ユーキたちの前では言えないようなことを言うんだぜ。それに比べたら簡単だって!」

「じゃあマリー。父さん大好きって、今から大声で叫べる?」


 それを聞いて、マリーは答えに窮した。心なしか、背を仰け反らせたようにも見える。

 その様子にクレアは意地悪な笑みを浮かべた。


「でしょ? 昔は出来ても、年を取るとできないことも増える。人間っていうのは、そういう不思議な生き物ってこと」

「ぐぐぐっ……」


 何か反論しようとマリーが呻くが、その言葉は最後まで出てくることはなかった。

 馬車の車輪が時折、大きな軋みを挙げる中で、ユーキはその様子を見て少し羨ましくなった。

 マリーもクレアも何だかんだいって伯爵夫妻のことが好きなんだろう。そう思えるような雰囲気に、自分の家族のことを思い出してしまったのだ。

 ウンディーネに心中を吐き出していなかったら、精神的に苦しかったかもしれないとユーキは息を吐く。もうすぐこちらに来て三ヶ月が経とうとしているのに、帰還するどころかこちらの世界で過ごす基盤が整い始めていることに喜ぶべきか、悲しむべきか。どちらにしても進展がほとんどない。

 伯爵家で読んだ本を思い出してみるが、自分が選り好みをしたせいで、中身は基本的な魔法ばかりで転移や次元などに関する魔法については一文字も見られなかった。はっきり言って、ユーキが元の世界へと戻る手がかりはほとんどない。

 転移については、手掛かりと呼べるほどのものではないが、ヒントになりそうなものは二つ存在している。

 一つは、アメリア第一王女殿下の転移門である。ただし、聞いた話では本人が訪れたことがある場所にのみ、門を一方通行で開くことができることから、こちらを使うという手は不可能だ。

 もう一つは、伯爵邸に侵入した謎の男。月の八咫烏と名乗る者が使った転移魔法だ。

 少なくとも、魔法の中に距離を無視して移動するという物が存在する以上。帰る方法が存在しないというわけではない。

 どうにかして、その知識を得ることはできないかとユーキが頭を捻っていると、アイリスが声を挙げた。


「街の外に、出た」


 幌の張った馬車と違って、貴族が乗るような外見と内装のため、ガラス窓から外の様子を見ることができる。窓の外はちょうど城壁のトンネルを抜けたところで、明るい日の光が地面を照らしていた。

 既にシャドウウルフの死骸の回収は終わっているらしく、地面に残った魔法の痕跡や血痕を見ない限り、何があったのか知らない人は何も気づかないだろう。


「本当にここ数日は濃密な時間でしたね。本当に私たち、あの魔物の群れに負けなくて良かったです」

「そうだね。もう少し規模が大きかったら無理だったかも」


 フランとサクラは、改めて戦闘の規模を思い出して戦慄しているようだった。

 何度かこの道の先でシャドウウルフと戦闘をしたが、運が悪ければその群れに飲み込まれ、骨すら残らなかったかもしれない。

 実際に、何組かの冒険者は依頼に行ったきり戻って来ていない。恐らく、街への帰還途中に襲われてしまったのだろう。その一組の中に、自分たちも入っていたかと想像するとぞっとする。


「クレア様、マリー様。この後の道程の確認をしてもよろしいですか?」

「あぁ、メリッサ。よろしく」


 入口側に座っていたメリッサが姿勢を崩さずに聞くと、クレアが頷いた。


「かしこまりました。それでは説明させていただきます。本日はシャドウウルフが来たとされる方角にあるダンジョンの確認を行います。既に冒険者ギルドが先遣隊を送り、安全を確保しているため、この人数でも問題ないと思われます」


 ダンジョンの氾濫が起こった後は、ダンジョン内のモンスターが極端に少なくなる傾向にある。既に冒険者が現場を押さえている以上、中を簡単に見回って終了だろう。


「その後は、お嬢様方が希望されている通り、温泉の街ホットスプリングスへ向かいます。着くまでには三日程でしょう。その後は王都へ向けて出発します。全行程としては十日ほどと予想されます」

「あれ? 意外に早く着くな」


 街のネーミングそのまんまだな、と思いながら、ユーキは想定よりも早い到着予定に驚いてしまった。

 徒歩のいない騎士隊とはいえ、馬車で荷物を引っ張っているのだ。一日の移動可能距離はそこまで長くないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


「はい。基本的にこの馬車に必要な物資を全て積み込んでますので、スピードは普通の馬に人が乗って走るのと同じ程度だと考えてください」

「ファンタジーすげぇ……」


 ぼそりとユーキは聞こえない声で呟いた。

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