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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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凱旋の一歩Ⅰ

 筋肉痛も感じなくなった心地よい目覚めを堪能しながら、ユーキは背伸びをする。

 昨日で家屋の破損記録は終わり、城壁の修復もはほぼ終わってしまった。人海戦術とはいうが、冒険者や魔法使いが集まるだけで、あっという間に終わってしまったことに拍子抜けしてしまう程だ。

 短いながらも濃い日々ではあったが、ユーキたちは今日の朝、この伯爵領を旅立つことになっていた。今回の件に関しては、王都もかなり問題視しているらしく。伯爵とビクトリアは領地から動くことができない。

 本来の領地経営を含めた最低限の引継ぎなどをマリーたちにする予定だったが、既にその点においては伯爵たちも予想は出来ていたため、護衛をつけて、さっさと王都へと送りたがっていた節がある。

 クレアたちもそれをわかっていたからこそ、先日、ユーキの部屋に集まって、寄り道の話を決めたのだろう。幸いにもユーキたちは手で運べる程度の荷物しか持ってきていないので、移動するのには問題はない。問題があるとすれば、地理に疎い為、どれくらいの旅になるのかわからない所だろう。おまけに、王都に行くまでに襲われる可能性も否定はできない。


「あまり長居するのは迷惑だけど、王都までの旅路も安全とはいかないからなぁ」


 夜中に道端で酔いつぶれて寝ていても、物一つ盗られないような安全な国とは違い、ほんの少しの油断で命を落とす世界だ。感覚が麻痺していたが、出発の時間が近付いていることを自覚した瞬間に、不安になってきてしまう。


「(こういう嫌な予感がする時って、本当に何かあるから嫌なんだよな)」


 何かわからないが、嫌な予感や悪寒がする時、ユーキは必ずと言っていいくらいに不幸が襲ってくる。

 それは事故であったり、身内の不幸であったりと様々だ。その中でも一番印象に残っているのは曾祖母の死だった。流石に小さい時だったので自分自身は覚えていないが、母親が言った言葉は今でも覚えている。


 ――――あんた、覚えてないの? 夜中にいきなり、おばあちゃんに会いに行こうって言いだして、次の日に行くって決めたけど、今すぐいきたいって駄々こねたじゃないの。それで、その数時間後に――――


 曾祖母が亡くなった。その連絡が施設から届いた。

 若い頃の無理がたたって、膝を壊した曾祖母は、会いに行くたびにいつも笑顔で話をしていた。その会話の最後は必ず、いつも同じ言葉で締めくくられる。


 ――――勇輝。生きてれば、どうにでもなるから、自殺だけはしちゃいかんよ。


 こちらの世界で死の淵を彷徨った時にも、夢の中で出てくるくらい刻まれている言葉だ。だからこそ、こういう感覚を幼い頃から感じていたんだろうか、と少し不気味に思ってしまう。

 母の言う、誰が危険か、というところまで判別できるほど鋭敏ではないが、今日の感覚は少し違っていた。今向いている窓、朝日が昇る方角とは真逆。背中がぞわぞわとする。

 つまり、これから向かう王都の方角で何かが起こる予感があるのだ。おまけに昨日は変な幻覚も見てしまった。気のせいでないことを祈りながらユーキはベッドから体を起こす。

 覚悟を決めて魔眼で自らの体を見るが、特におかしな色は見当たらなかった。

 数秒間、腕を凝視した後、魔眼を閉じる。やはり昨日見たものは気のせいだったと考えて、ユーキは着替えを手に取った。

 いつでも出発できるように恰好を整えていると、ドアからノックの音が響く。


「ユーキさん。起きてる?」

「あぁ、起きてるよ……って、サクラ!?」


 振り返るとドアから顔を覗かせているサクラがいた。

 驚くのも無理はない。朝が苦手なサクラが目の前にいるからだ。


「あ、あはは。おはよう。ちょっと昨日は早く寝ちゃったら、その分だけ早く起きちゃって……」


 ユーキの表情から考えていることが読み取れたのだろう。何も言わずとも自ら早起きの原因を説明してしまう。その顔は少し朱に染まって恥ずかしそうであった。

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