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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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消えぬ怒りⅠ

 修復作業が始まって三日目。

 緊急で手配された冒険者たちの手もあり、城壁の修復は一気に進み始めていた。人数が増えた程度で城壁が修復できるのか、という問題だが、便利なことに魔法という存在がある。身体強化だけでなく多種多様な魔法で物を運び、積んでいく作業を行うことができる。

 特に重宝されたのはゴーレム使いで、巨大なゴーレムを形成した後はあっという間に積まれていた資材が消えていった。


「あたしたちの仕事もほとんど終わり。あとはあそこの周辺の比較的無事な家をチェックして終了だ」

「意外と早く終わりますね」

「うん、これなら早く王都に帰れるかも」

「それはそれで寂しい……」


 作業も終わりを迎えることが分かって、精神的にも楽になったのか、全員の表情にも余裕を見て取れる。

 そんな中でユーキも今日の作業は苦労せずに終えられそうだと気楽に構えていたのだが、目的の家屋の前に来た瞬間、サクラと思わず顔を見合わせた。

 先日、通りがかった時に睨んできていた人の店だった。


「確か。野菜とか果物を扱ってる店に見えたけど……。前に見た時よりは片付いてるな」

「何だ餓鬼ども。閉店中だ。見せもんじゃねえんだから、さっさと散りやがれ」


 白髪混じりの壮年の男性が物音に気付いたのか、奥から出てきた。目の下には隈が浮かび、顎髭も伸びている。片付けやら何やらで自分の身だしなみにまで気が回っていないように見受けられた。どうやらこの店の店主らしい。

 ユーキを始め、サクラやフランたちが若干引いていく中、クレアが進み出た。不機嫌そうな顔をする店主に、明るい顔で声をかける。


「クレアだけど、疲れてるとこ悪いね。とりあえず家の被害を何とか把握したいのと、城壁の石があるなら回収したいんだ。いいかな?」

「何だ。伯爵の所の嬢ちゃんか。あぁ、入っていいぜ。できれば、もう少し早く来てほしかったんだけどな」

「ごめんごめん。こっちも色々とあって崩れそうな家とかから回らなきゃいけなかったんだ」


 クレアの様子に店主の声が柔らかくなった。

 険悪な雰囲気だったのが、本当に八百屋の店先で話しているような感覚になる。


「クレアもマリーもこういう場の雰囲気を変える力があるけど、こうやって見ると凄いことだよな」

「うん。私だったら、怖くて帰っちゃうかも」


 二人が怯えるのにも理由がある。

 よく見ると店主の右目から口元まで一本の長い線が入っているからだ。普通の生活をしていて、そのような傷がつくはずがない。

 大抵の場合、こういう顔の人間は元冒険者で引退している人間が多い、とユーキもギルドでも話を聞いていた。その原因は二つに分けられ、一つは魔物との戦闘での負傷。もう一つは、対人戦闘での負傷だ。

 前者はそれほど問題はないが、後者になると話は変わってくる。正当防衛で戦ったのならば問題はないのだが、いわゆる痴情のもつれなどの人間関係や金銭関係で問題になり、私闘を行う輩が一定数いる。

 端的に言うならば、柄の悪い人間が多いということだ。


「――――とっととやってもらいたいが、そこの黒髪の二人は遠慮してもらうぞ」

「「えっ?」」


 クレアと話していた店主の矛先が自分たちに向いたので、間抜けな声が出てしまう。


「どうして、ここにいるのかは知らんが、あっちの国と関わり合いのある連中がいるのは気に食わん。こいつらがいなけりゃ、こんなことにはならなかったんだからな」


 呆然とするユーキとサクラの後ろからフランが囁いた。


「もしかして、あのおじ様。ユーキさんたちを帝国の人間と勘違いしてません? 前に通った時もサクラさんが言ってましたよね。髪の色が同じで勘違いされるって」


 言われて数日前にサクラが話していたことをユーキもやっと思い出した。

 ただ、自分たちの出身国は和の国であることを考えると酷い言いがかりになる。理解はできるが納得はできない、といったところだろうか。

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