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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第8巻 深緑の妖精庭園

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掘り出し物Ⅴ

 クラクラしながらも、ユーキは何とかクレアから離れる。

 対して、掴んで振り回していた張本人はほっと胸を撫で下ろしているようだ。


「何だ。いつの間にかマリーに先を越されたのかと……」

「一体何をだよ……」

「ユーキ。多分、クレアは社交界デビューのことと勘違いしてる、かも」


 ユーキは社交界デビューと聞いて、自分の知識の中から何とかイメージを絞り出す。

 貴族の偉い人が開催して、その子女が集まって自己紹介したり、ダンスをしたりする。一言で表すとすればそのような言葉になるだろう。


「あながち間違っていない、かも。でも目的は、料理でも、ダンスでもなく――――『婚活』」

「こん……かつ!?」

「そう。『一人前の女性になりました』は言い換えれば、『伴侶を探しています』ってこと」


 小説とかで舞踏会とかのシーンを見ることがあるが、単純にお祝いで集まって、飲んでは食べて、踊っているというわけではなかったのだ。いわゆる合コンに近いものだろうか。

 言われてみれば、若い男女がダンスという近距離に接近してしまえば、そういう意識の一つや二つ芽生えるのだろう、とユーキは納得する。

 尤も、実際はダンスをしながらの会話なども通じて、自分と相性はいいのかどうかを見定めるので、ユーキが考えているよりも大分難易度は高い。

 貴族としてのステータスを示す場所であり、試される場所でもある。貴族の、特に女性にとっては戦場でもあるのだ。


「ん? ってことは、クレアって――――」

「おっと、手が滑った!」


 いつの間にか隣に来ていたクレアの片手で口を塞がれる。正確には頬を親指と人差し指、中指で思いっきり両側から締め上げられた。

 タコのような口になってしまったユーキが、腕をタップしながら悲痛な声を挙げる。


「いひゃいいひゃい!!」

「ユーキ。あたしも女なんだ。それ以上、恥かかせるようなら……わかってるね?」

「わはった! わはった!」


 ユーキが半泣きになりながら答えると、両頬から迫って来ていた強力な万力が緩んでいく。

 両手で解しながらクレアへと距離を取ると、割と意気消沈した面持ちでクレアはため息をついた。


「まぁ、あたしもさ。あんな危険な破壊力持ってる両親の娘だから半分諦めてんだけど。ちょっとは憧れちゃうよな」

「なんだよ。貴族なんだから関係ないじゃん」

「それが大ありなんだよな。父さん、色々無茶やってるから変なところで敵が多くてさ。正義を貫くのは良いけど、その分、敵も多くなってあたしにまで回ってくるんだよ。当然、舞踏会を開く家に迷惑かけるわけにもいかず、かといって舞踏会を開くほど二人とも暇がないし」


 流石にクレアが主催となって舞踏会を開くのは無理がある。

 あくまで家の主がいて、その中で一人前になった娘の紹介を、というのが(その常識をユーキは一切知らないが)一般的なのだろう。

 そこまで聞いて、ユーキはマリーの普段の行動で気になっていたことを思いだした。


「もしかして、普段マリーがサクラやアイリスとしか話さないのも……?」

「まぁ、そういう対策だろうね。下手に関わると、マリーじゃなくて、そちらに被害がいくからね」

「まじかよ……。魔法学園の中でもそういうことあるのか」

「学園長が優秀でも限界はあるってこと。その点、アイリスは後ろ盾があるらしいから安心して大丈夫。サクラに関しては国際問題になるから、下手に手出しできないし」


 ユーキは一瞬、アイリスを見る。

 この幼い少女に対しての後ろ盾、しかも、あの色々すごい伯爵の敵に回るような貴族ですらも手出ししたくなくなる程とは、いったいどの程度のレベルなのだろう。

 クレアの知り合いだと犬猿の中ではあるが、オーウェンがいる。彼の場合はライナーガンマ公爵家だ。あのレベルになれば、クレアと話をしていても手出しができないとなると、実質トップクラスの貴族が後ろにいることが推測される。


「アイリス。頭いいだけじゃなくて、何か色々と凄いんだな」

「うん」


 語彙力がなくなってしまったユーキの呟きに、若干、誇らしげに胸を張るアイリスである。

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