掘り出し物Ⅳ
二日目の作業が終わり、ユーキたちは伯爵邸への帰路に就く。
街の住人の一部の人は、家などが破壊されたりして住む場所が確保できないため、伯爵邸の地下にある避難空間で過ごすことになっていた。
「じゃあ、さっきの家の人もまだそこに?」
「そうだね。多分、いると思うからオースティン――――は忙しそうだから、手の空いている使用人に持って行かせる。要らないようだったら、多少色を付けて買い取ってやればいい」
「う……そこら辺の相場がわからないんだけど……」
未だにこちらの世界の生活必需品の相場ですら把握できていない身としては、いくらが適正値なのか想像できない。
呻いているとフランが飛び出して来た。
「ユーキさん、私の本業、何か忘れてませんか?」
「そうか、じゃあフランならわかるんだよな?」
「――――金貨百枚」
その口から飛び出た言葉に一瞬、耳を疑った。
「銀貨?」
「金貨、百枚。大金貨なら十枚。白金貨なら1枚」
「……俺そんなに金……いや、一応持ってるな」
国王から貰った分と今まで稼いだ分などを合わせれば、まぁ、足りなくはない。
しかし、こんなところで使ってしまえば、今後の生活に困ってしまうのは明らかだった。
「――――というのは、私がユーキさんから買おうとした場合の値段でして」
「え?」
「どんなに上等なガラス細工だとしても金貨一枚で足りると思います」
いきなり百分の一レベルにまで価格が落とされたのでユーキは拍子抜けしてしまう。
間抜けな顔をしてしまったユーキにアイリスが助け舟を出す。
「ユーキ。さっきの家の人とフランの違うところ、わかる?」
「え? 商人かどうかってこと?」
「それも正解だけど、それよりも大切。サクラはわかる?」
話を振られてサクラは顎に手を当てながら、しばらく思案した後、人差し指を挙げて問いに答えた。
「その価値を知っているかどうか?」
「正解」
精霊石を創れるという価値を知っているのは、ウンディーネと会話しているユーキたちだけだ。
もちろん、持ち主が精霊と親交がある場合も否定はしないが、その存在故に限りなくゼロに近いだろう。魔法学園の学園長ですら珍しそうにしているのだから、その可能性は排除して考えて良い。
「まぁ、あたしも後から聞いたもんだから、そのガラスについてはよくわからないんだけど、情報も立派な資産だからね。知りたいなら金を払うし、知らないならそのまま損をする。冒険者じゃなくても常識だよ。だから変な心配はしなくていいってわけだ」
「な、何だよ。俺の顔見て」
「ユーキのことだからな。どうせ、要らない心配をしてるんだろうと思っただけ。多分、フェイもわかってるんじゃない?」
クレアが振り返ると後ろから着いてきていたフェイがハッと顔を上げた。
「ご、ごめん。今、何か言ったかな?」
「フェイにしては珍しくボーっとしてたけど、どうしたの? 腹でも壊した?」
「クレア。何というか、下品ですよ」
顔を顰めながら言うと、クレアは大笑いしながらフェイに近づいて肘で小突く。
そういう一挙一動が、どこかマリーを彷彿とさせる辺り、姉妹であることを再確認させられる。
「そんなの今更だろ。あたしとマリーがドレス着飾って、お上品にしゃべってるところ考えてみろ。あたしは、鳥肌が立ってくる」
「あ、でもドレスなら着てたことあったよな」
「――――何だって!?」
先程まで笑っていたクレアの顔が一変した。
サクラとアイリスに確認するように呟いたユーキの下へと駆け寄ると、その首元を両手で掴んで前後に揺する。
「あのお転婆なあの子が、いつ、どこで、だれと、ドレスを、着てたって!?」
「うおおおお、落ち着け、クレア!? 何で、そんなに、興奮してんだよ!?」
視界がぐわんぐわんと揺れる中、何とか話すユーキだが、クレアの動きは激しさを増すばかりだ。
伯爵邸に向かう道から望める街の絶景が、あまりの早さに目の端でぼやけていく。
「あ、多分、王都で学園長先生をお招きして食事をした時のことじゃない?」
「うん。私たちも、ドレス着た」
二人の言葉を聞いて、すぐにクレアの動きが止まる。
ユーキは脳の中をかき回されたような気分で、端的に言うと気持ち悪くなってしまった。
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